村井氏、6選果たす　和田氏猛追も1万5000票差　宮城県知事選で明暗

冷たい風が吹き込む開票所に、ため息と歓声が交互に走った。宮城県知事選は2025年10月26日、現職の村井嘉浩氏（65）が僅差で6選を決めた。追い上げたのは元参院議員の新人、和田政宗氏（51）。差は1万5000票余りにとどまり、都市と郡部のねじれが鮮明になったことを示す局面となった。次の4年を誰がどう動かすのか、県政の重心が問われる選択であった。

薄氷の勝利が語るもの

最終盤まで「どちらが勝ってもおかしくない」との空気が漂った。県選挙管理委員会の集計では、有権者数は187万2116人、投票率は46・50％。無効票を除く得票総数は86万4960票で、村井氏は和田氏の猛追を振り切ったが、勝利は紙一重だったと映る。開票所で肩をすくめた支援者の表情に、安堵と緊張の余韻が同居した。

票の地図をたどると、ねじれの輪郭が浮かぶ。県内35市町村のうち、村井氏は仙台市を除く34市町村のすべてで上回った一方、仙台市内では劣勢を強いられた。仙台での村井氏の得票は13万2538票にとどまり、和田氏に3万6000票余りの差をつけられたとされる。郡部の積み上げと都市部の逆風が、拮抗の構図をつくったとみられる。

選挙戦を貫いた争点は、行財政改革や医療提供体制、成長戦略の描き直しであった。現職の実績と継続性を買う声は根強いが、変化を求める層の広がりも無視できない。結果は現状追認ではなく「厳しい信任」であり、説明責任と対話の密度を高めよという注文が突きつけられた格好だ。

都市の風、郡部の土

仙台市では官庁街を抱える青葉区や、副都心の太白区で和田氏が1万票以上の差をつけた。若年層や子育て世代の通勤・生活導線が交差する地域で、市政課題と県政の接点が可視化され、刷新志向の風が吹いたとみられる。市中心部の街頭では、政策ビラを片手に「生活感のある議論を」と訴える声が目立った。

一方で、郡部では現職への支持が盤石だった。インフラ整備の継続、産業や防災の経験値への信頼が得票に直結した構図である。被災地を回った支援者は「これまでの積み上げを止めてはならない」と語り、長期の復興工程を途切れさせない判断が広がったと映る。地域医療や交通の網を守る視点も加わった。

都市と郡部で優先順位が揺れ、訴求ポイントは分かれた。仙台では物価高や子育て支援、スタートアップ支援が響き、郡部では水害対策や道路改良、医療の担い手確保が焦点化した。結果のモザイクは「一つの解」を拒む。県政は多層の現実を束ねる設計図を描き直し、都市の風と郡部の土を接合する作法を磨く必要がある。

参政党の全面支援と準備の遅れ

和田氏の背後には、7月の参院選で躍進した参政党の全面支援があった。同党の主要メンバーが選挙期間中、繰り返し仙台に入り、SNSと街頭を往復しながら支持拡大を図った。陣営幹部は「郡部での先行は想定内。都市でどこまで差を広げられるかが勝負だった」と振り返る。都市部での強さは確かに示された。

ただし、勝敗を分けたのは時間であった可能性が高い。候補者一本化までに時間を要し、準備の遅れが痛恨だったという見立てがある。神谷宗幣代表は26日に「スタートの遅れが悔やまれる」との趣旨を公表し、戦術上のロスを示唆した。街頭を重ねた勢いは届いたが、最後の1万5000票を埋め切れなかった構図だ。

敗戦の弁で、和田氏は「政策の浸透がうまくできなかった」と悔しさをにじませた。現職は6期目に入るが、得票差が示すのは白紙委任ではない。仙台で空白を生んだ政策の言語化、郡部で積み上げた信頼の更新、議会との協働の再設計。求められるのは、分断線をまたいで立つガバナンスである。次の一手が試されている。