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モルドバ議会選の余韻が冷めない2025年9月29日、クレムリンが声を荒らげた。ロシア在住のモルドバ人の投票が妨げられたと非難し、在露の投票機会が著しく限られたと主張したのだ。一方で選挙自体は親EUの与党「行動と連帯」がロシア寄りの「愛国者ブロック」を退ける展開となり、キシナウの針路は改めて欧州へと向いた。
ロシアの抗議が走った日、焦点は「投票所の数」
2025年9月29日、クレムリンの報道官が電話会見で、在露モルドバ人が投票できなかったと訴えた。背景には、ロシア国内で開設された在外投票所がモスクワの2カ所に限られた事実がある。モルドバの中央選管は夏の段階で国外の設置計画を公表し、ロシアについては安全面を理由に最小限とする姿勢を示していた。
ロシア側は「投票資格を持つ人々の意思が反映されていない」と強調し、選挙の公正さを疑問視した。これに対し、モルドバ側は法定の範囲で国外設置を決定したと説明している。議会は定数101で、在外投票は国内の制度枠組みに沿って扱われる仕組みである。
ロシアには数十万人規模のモルドバ人が暮らすとの見方がある。投票所が2カ所にとどまったことで物理的アクセスは狭まり、長距離移動を余儀なくされた有権者も出た。ロシアが「機会の剥奪」と訴える根拠は、まさにこの点にある。
票が示した進路、与党「行動と連帯」の大勝
選挙が行われたのは9月28日だ。開票が進むなか、中央選管の集計では与党「行動と連帯」（PAS）が約50％を確保し、「愛国者ブロック」は約24％にとどまった。PASは欧州連合（EU）加盟交渉を推し進めてきた与党で、数字は有権者の多数がその路線を支持したことを示す。
投票率はおよそ52％となり、内外の関心度の高さを反映した。国内の有権者だけでなく、国外在住者の一票が最終盤の構図にも影響したとみられる。都市部と地方、国内と国外で投票行動の色合いが分かれ、それが全体像を複層的にした。
野党側は違反行為を訴え、抗議行動を呼びかける動きも続く。与党は冷静な集計作業の完遂を求め、治安当局は挑発への警戒をにじませた。現時点で確認される範囲では、決定的な混乱は避けられ、手続きは所定の流れで進んでいる。
分断線は国境の外に―ディアスポラ票が動かす重心
国外投票所の配置は、各国のモルドバ人コミュニティの厚みを映す。当局の計画と発表によれば、国外には300超の投票所が並び、イタリアに75、ドイツに36が置かれた。欧州の主要国では都市圏を中心に複数拠点が設けられ、アクセス面での利便性が確保された。
その一方で、ロシアでは投票所がモスクワの2カ所に限定された。安全上の理由と外交上の制約が重なり、設置判断は慎重化したとされる。地理的広さに対して拠点が少ないため、移動コストが投票行動の障壁として立ちはだかった。
現時点で確認されている範囲では、欧州各国の票は与党に厚く、ロシアでの票は親ロシア系に比重がかかる傾向が出た。一部報道によれば、ロシアでの投票は数千票規模にとどまり、ドイツなど西欧では数万票単位で動いたとされる。ディアスポラの地理は、そのまま政治的重力の地図になる。
クレムリンの非難は選挙の正当性を巡る新たな火種になりかねないが、票読みが示すのは「欧州に向かう」という選択である。国外投票の設計と運用は今後も争点になりうる。だが、制度の細部に光を当てるほど、モルドバ社会が問うているのは最終的に「どこへ進むのか」という一点である。
