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長野県中野市で2023年5月に住民女性と警察官の計4人が殺害された事件で、長野地裁は2025年10月14日、農業の青木政憲被告（34）に求刑通り死刑を言い渡した。最大の争点だった刑事責任能力について、裁判所は完全責任能力を認定した。重い判断が、事件と向き合ってきた地域社会にあらためて問いを投げかけている。
静かな法廷に下った最終判断
秋の風が冷たく感じられた朝、長野地裁前には傍聴券を求める列が静かに伸びていた。2025年10月14日 13:30に開廷した判決公判で、坂田正史裁判長は主文を後回しにし、判決理由から読み上げを始めた。張り詰めた空気のなか、14時過ぎに主文が言い渡され、被告に対する死刑が確定的な言葉として響いたとみられる。
検察側は2025年9月24日の論告で死刑を求刑し、結果の重大性や犯行態様の悪質さを強く指摘していた。これに対し、弁護側は心神耗弱を主張して減軽を求め、量刑の分岐線は被告の責任能力の評価に置かれていた。評議の積み重ねの末、裁判所は完全責任能力を認める方向で判断を固めたと映る。
公判を通じ、被告は検察・弁護双方の質問に黙秘を続けていた。証拠調べと証人尋問、そして最終弁論を経て辿り着いた結論は、加害と結果をどう評価するかという根源的な問いと重なる。主文後回しの運用は、市民に理由を丁寧に伝える意図が込められた手続の選択でもあったといえる。
争点となった「責任能力」
弁護側は被告に強い妄想の影響があり、善悪を判断して行動する能力が著しく減退していたと主張した。心神耗弱が認められれば刑が減軽されうるため、量刑を左右する最大の争点となった。精神鑑定や証言記録を踏まえ、法廷では被告の精神状態をどう位置づけるかが繰り返し問われた構図である。
判決は、被告に完全責任能力があったと認定したうえで、犯行を「強固な殺意」に基づく極めて残虐なものと評価した。短時間に複数の被害者が生じ、社会に重大な不安を与えた点や、凶器の危険性を伴う手段が用いられた点を重視した判断と受け止められる。求刑に沿った結論となった意味は重い。
死刑適用の可否は、被害結果、動機、態様、遺族感情、社会的影響などを総合して衡量される。今回の裁判員裁判でも、証拠に照らした法的評価と市民感覚の折り合いを探る作業が続いた。結論は厳罰であるが、そこに至る理由が丁寧に語られたことは、裁判員制度が担う説明責任の一つの形にも映る。
事件が残した傷と、これからの課題
事件は2023年5月25日夕に起きた。中野市江部の路上で散歩中だった竹内靖子さん（当時70）と村上幸枝さん（同66）が相次いで刺され、命を落とした。通報を受けて現場に駆け付けた県警中野署の男性警察官2人も、銃撃や刃物によって死亡した。凶器にはナイフとハーフライフル銃が用いられたとされる。
地域は突然の暴力に揺れ、日常の景色は長く戻らなかった。被告は農業に従事し、市内で暮らしていた。逮捕、起訴、公判、そして判決までの道のりは、遺族や住民にとって忘れがたい時間となった。社会の安全と自由をどう両立させるのか、銃刀類の管理や通報体制の在り方にも議論が広がっている。
今回の判決は第一審である。弁護側の対応は現時点で明らかでなく、控訴の可能性は残されている。刑事訴訟法上、判決言い渡しから14日以内に控訴できる仕組みだ。最終的な確定に至るまで、事実認定と法適用の検証が続く。重い事実と向き合い続ける営みが、再発を防ぐ知恵につながることを願いたい。
