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会議室でマイクを握った物流会社や通販事業者の担当者たちが、次々と現場の負担を語っていく。国土交通省が進めているのは、荷物を玄関先などに置いて配達を完了する「置き配」を、国の標準ルールと今後の物流政策の中に正式に組み込む作業だ。宅配便の再配達を減らし、トラックドライバーの負担を和らげながら、2030年度まで宅配サービスを持続可能なものとして守ることが、その狙いとされている。
置き配を標準サービスに 再配達率8.4%の現実
インターネット通販の拡大で、宅配便の取扱個数は年間約50億個に達し、そのうち約8.4%、およそ4.2億個が再配達になっていると国交省は説明する。政府はかつて再配達率12%前後から5%程度への半減を掲げたが、2025年4月の時点でも8%台にとどまり、人手不足のトラック業界には重い負担が残ったままだ。こうした状況を踏まえ、国交省はラストマイルと呼ばれる最終区間の配送効率化を、物流政策の最優先課題の1つとして整理している。
現在の標準宅配運送約款では、荷物は原則として受取人に対面で渡すことになっている。今回の提言では、この基本ルールに宅配ボックスや街中のロッカー、玄関前の置き配など多様な受取方法を加え、利用者が事前に選べる仕組みを整える方針が示された。標準約款を改正すれば、中小の宅配事業者も個別に約款を作り直すことなく新しいサービスを導入でき、2026-2030年度を見通す次期総合物流施策大綱の柱として全国に広げていく構想だ。
マンションの不安と、見守るための仕組み
一方で、とくにマンションでは盗難や個人情報の漏えいを心配する声が根強い。廊下に荷物が長時間置かれれば、宛名から居住者の名前や不在時間の傾向が第三者に伝わるおそれがあるためだ。実際に一部の物件では、配達員を事前登録し、オートロックの解錠履歴を残す運用が始まっている。国交省も、オートロック式マンションで置き配を導入するには管理組合など住民側の合意と、セキュリティを守るためのきめ細かなルールづくりが欠かせないと強調している。
提言には、標準約款の改正と並行してガイドラインを策定し、盗難や誤配が起きた場合の責任分担や補償の考え方を業界全体で共有する方針が盛り込まれた。マンションでは複数の宅配会社が同じ建物に出入りするため、オートロックを安全に解錠するためのシステム連携や伝票番号の共通化を支援することも検討されている。利用者に安心して置き配を選んでもらうには、こうした見えにくい仕組みを地道に整える作業が、制度と現場とをつなぐ土台になる。
広がる選択肢が暮らしをどう変えるか
大手の宅配会社はすでに自社の約款で置き配や宅配ボックスへの配達を認めており、再配達削減に一定の効果をあげてきた。ただ、中小には同じような仕組みを整える余力が乏しく、国の標準ルールとして認めることで、ようやくスタートラインをそろえられるとの見方もある。自宅の宅配ボックス、近所のロッカー、玄関前の置き配という複数の選択肢が当たり前になれば、受け取る側にも在宅時間を細かく調整しないという新しい行動パターンが、少しずつ広がっていくと期待されている。
再配達で戻された荷物を再び積み直し同じ玄関ベルを押すという繰り返しが、標準約款の改正とガイドライン、そして次期総合物流施策大綱のもとで少しずつ減っていくとき、私たちの暮らしの風景の中で荷物の受け取り方は静かに姿を変えているのかもしれない。
