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湾岸に向けて白い機体がゆっくりと立ち上がり、やがて炎の柱とともに空へ抜けた。米ブルー・オリジンの大型ロケット「ニューグレン」が2025年11月14日 05:55、フロリダのケープカナベラル宇宙軍基地から発射され、NASAの火星探査機2機を目的軌道へ送り出した。打ち上げ後には1段目ブースターの回収にも成功し、軌道級での再利用へ向けた節目を刻んだ。
ブースターが戻った瞬間
数日の順延を経て、ニューグレンは管制のカウントに合わせて点火した。地上の天候に加えて太陽活動の影響もにらむ緊張の運用が続いたが、時間どおりに離昇したのが印象的だ。機体は全高98mの2段式で、ブルー・オリジンの重打ち上げ能力を象徴する存在である。
上段分離ののち、1段目は降下マヌーバに移り、大西洋上の回収船プラットフォームへと慎重に姿勢を合わせて着地した。中継映像の管制室では歓声が広がり、初飛行時に果たせなかった着陸をわずか2回目で成し遂げた意義の大きさを物語った。
軌道級ロケットのブースター回収はこれまでスペースXが切り拓いてきた領域で、ニューグレンの成功は2社目となる。大型機の再使用という難題に現実味が増し、回収から再出荷へと続く“運用の物語”がようやく動きだしたといえる。
火星へ向かう双子の探査機
今回の主役のひとつが、NASAのESCAPADE（Escape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers）だ。ロケットラボが組み立てた小型探査機2機で、通称「Blue」と「Gold」。ニューグレンはこの双子を火星へ向かう軌道へ送り出す役割を担った。
任務の核は、太陽風が火星の磁気環境にどう作用し、大気がどのように宇宙へ逃げていくのかを同時観測で捉えることにある。移動にはおよそ11か月を要し、到着後は周回軌道で計測を重ねる計画だ。大気喪失の仕組みが整理されれば、火星の気候史の理解にも一段深みが出る。
このミッションは数度の計画調整を経て今に至った。打ち上げ機の準備や窓の制約に揺れたが、今回は機体の性能と運用の目処がかみ合った。小型・複数機での火星科学という設計思想が、輸送側の成熟と結びついたかたちである。
再利用がもたらす現実味
再使用を前提とした大型機が安定して飛べるなら、価格と頻度の両面で選択肢が広がる。ニューグレンの回収成功は、その前提条件に手をかけた意味を持つ。今回の飛行は国家安全保障分野の認証取得プロセスにも位置づけられ、民間と政府の案件を往復する道筋を太くする。
同時に、打ち上げからのテレメトリー中継を新たな手法で実証するなど、運用の“裏方”でも前進が見えた。発射場だけに頼らない通信の多重化は、将来の連続打ち上げや遠地点での任務に効く。輸送の信頼性が上がれば、火星や深宇宙の小型探査も計画しやすくなる。
スペースXが築いた再利用の路に、ニューグレンが追いつき、別の設計思想で並走し始めた。互いの成功が市場の裾野を広げ、選べる手段が増えるほど、科学者や運用者の構想は具体になる。静かな海面に立つブースターは、その先の往来を静かに予感させる。
