ネクスペリア巡り中国とEUが「会社主導」解決で一致　オランダ外しの異例構図

※記事を視覚化したイメージであり、実際の事象とは異なります。

2025.11.27

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通訳の声が交互に響く電話会議で、中国の王文濤商務相とEUのセフチョビッチ欧州委員が、オランダの半導体企業ネクスペリアを巡る行き詰まりを語り合っていたのは2025年11月26日のことだ。両者は、政治が直接指示するのではなく、同社のオランダ本社と中国法人が自ら対話し解決策を探るべきだとの考えで一致したという。だが、その舞台裏には、オランダ政府の対応に対する中国の強い不信感が横たわっている。

中国とEUが押し出す「会社主導」の解決と、オランダ外し

中国商務省の発表によれば、この日の電話協議で中国とEUは、ネクスペリア問題の「第一義的なプレーヤー」は同社の各拠点であり、関係当局はその後押し役に徹するとの立場を確認した。具体的には、オランダ本社と中国法人ができるだけ早く建設的な対話に入り、長期的な解決策を模索し、事業を安定的に再開できるよう、双方が共同で働きかけるとしている。半導体は自動車や電子機器の基盤となる「部品の部品」であり、一企業の紛争が欧州全体の供給不安に直結しかねないという認識が、EU側の関与を後押ししている。

一方で王商務相は、EUに対しオランダ政府へ明確な役割を求めた。オランダが「建設的な解決策」を早期に提示し、本社と中国法人が直接協議できる環境を整えるよう要請してほしいと伝えたのだ。オランダ政府は11月19日にネクスペリアを自国の管理下に置く特別措置を停止すると表明したが、親会社Wingtech Technologyの経営支配権を取り消した司法判断などは残ったままだ。中国にとっては「一部緩和」にすぎず、だからこそ当事国オランダではなくEUと直接話し合うという、異例の構図が生まれている。

オランダがネクスペリアに踏み込んだ理由と、その揺り戻し

そもそもなぜオランダは他国資本の半導体企業に深く介入したのか。発端は2025年9月30日、オランダ政府が「重要物資法（Goods Availability Act）」を発動し、ネクスペリアを事実上の管理下に置いたことにある。同法は、経済安全保障や重要物資の供給が脅かされると判断した場合、民間企業の経営に国家が介入できる仕組みだ。政府は、ネクスペリアのガバナンスに深刻な問題があり、欧州域内に蓄積された技術や生産能力が流出するおそれがあると説明した。これにより、Wingtech側の議決権は凍結され、国家が指名した管理人が一定の決定権を持つ異例の体制となった。

この介入は経営陣にも及び、Wingtechの張学政会長兼CEOはネクスペリアの役職を停止され、資産移転や人員削減など重要な判断には1年間の制約が課された。オランダは安全保障と技術流出防止を掲げたが、中国は「政治的な過干渉」だと強く反発し、自国の輸出規制や出荷停止を通じて対抗した。半導体供給を巡る綱引きが激しくなるなか、オランダ政府は11月19日になって特別管理措置の一時停止を発表し、緊張緩和のシグナルを送った。しかし、中国側が問題視する支配権の扱いなど、法的な枠組みはなお完全には解かれておらず、「元の状態に戻った」とは言いがたい。

揺れる半導体サプライチェーンと現場へのしわ寄せ

ネクスペリアはオランダ・ナイメーヘンを本拠とし、欧州やアジア、米国などに約1万2500人の従業員を抱える汎用半導体メーカーだ。自動車や家電に使われる比較的成熟した品目を大量生産しており、特に欧州の自動車産業にとって欠かせない存在とされる。こうした企業が、国家間の対立をきっかけに政府管理や輸出規制の対象となれば、現場の工場は突然、材料や部品が届かないリスクに直面する。英国では2020年代前半、同社によるウェールズの半導体工場買収が安全保障上の懸念から差し止められ、最終的に米国企業に売却された経緯もある。欧州各国が中国関連の半導体投資を選別する流れは既に始まっていた。

今回、中国とEUは「企業主導の解決」と「世界のサプライチェーンの安定」を繰り返し強調している。それでも、オランダの介入とその部分的な撤回、中国側の輸出規制や批判的声明といった一連の動きは、いつでも政治判断が工場の稼働を左右しうる現実を示した。ラインの前に立つ技術者や、世界各地でネクスペリアの部品を扱うエンジニアにとって、各国の声明文より大事なのは、翌月も同じ型番の部品が時間通り届くかどうかだ。電話回線越しに交わされた合意が、本当にその日常を支える仕組みに変わるのかどうかは、まだ静かに見極められている。