日産、福岡県の九州工場が半導体メーカー・ネクスペリア出荷停止で減産へ

2025.11.19

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コンベヤーの動きがわずかに遅くなる。日産自動車の主力拠点である九州工場が、半導体メーカー・ネクスペリアの出荷停止の影響で、11月24日から再び生産ペースを落とす計画だと関係者が明かした。対象車種を増やしての減産で、代替部品の確保が進めば計画は変わる可能性もあるが、現場では静かな緊張が続いている。

日産の九州と追浜、続く調整と織り込まれた「250億円」

福岡県苅田町の子会社・日産自動車九州では、すでに11月10日からの1週間におよそ900台分の生産を計画より減らした。翌週17日からはいったん通常稼働に戻すものの、その次の週には約1400台の追加減産を見込む。主にスポーツ多目的車「エクストレイル」（輸出名ローグ）が対象だったが、24日以降はミニバン「セレナ」も減産の列に加わる見通しだ。

神奈川県横須賀市の追浜工場でも、小型車「ノート」と「ノートオーラ」のラインが10日から絞られており、17日の週も減産を続ける計画とされる。12月以降の生産計画は、半導体の供給状況を見極めてから改めて決める段取りだ。日産の広報は、供給はなお不安定だとした上で、「必要に応じて生産を調整し、供給が安定した際には速やかに回復を図る」として、納車への影響を抑えたい考えを示している。

会社側は、こうしたリスクを業績見通しにもすでに織り込みつつある。日産は2026年3月期の予想を示す際、ネクスペリアの出荷停止や米アルミ大手ノベリスの工場火災などによる部品供給リスクとして、営業利益ベースで250億円のマイナスを見込んだ。それでも現場では、想定を超える悪化や、逆に想定より早い回復に備え、生産計画を細かく引き直す作業が続く。決算の数字の裏側で、日々のライン速度がそのたびに調整されている。

ネクスペリアを巡る駆け引きと、ホンダの北米再稼働

今回の混乱の震源地にいるのが、オランダに本社を置く半導体メーカー、ネクスペリアだ。同社は中国のWingtech Technology傘下だが、オランダ政府は2025年10月、安全保障上の懸念を理由に同社のガバナンスを自らの管理下に置いた。これに対し中国側は、報復として中国工場からのネクスペリア製品の輸出を一時的に止める措置を取り、自動車向けを含む世界のサプライチェーンに波紋が広がった。その後、条件付きで輸出は再開されたものの、双方の対立はなお解消されていない。

ネクスペリアが手掛けるのは、車のエンジン制御や安全装置、電源管理などに使われる汎用チップが中心である。ハイエンドな演算用半導体ではないが、1台の車に数百個単位で組み込まれるため、供給が滞れば量産車のライン全体が止まりかねない。安価だが欠かせない部品が、地政学を背景に一気に「ボトルネック」に変わった格好だ。各国が半導体の自給力強化を急ぐ中でも、こうした汎用品の在庫や供給経路は、まだ可視化しきれていない。

同じ日本勢でも、ホンダの北米事業は別の局面を迎えている。ホンダは、ネクスペリア製チップの不足で10月27日から米国とカナダの工場で生産を絞り、28日にはメキシコの完成車工場の稼働を止めたが、代替部品の調達などで一定の在庫を確保し、11月24日以降、北米の組立工場を順次通常運転に戻す方針を示した。一方で、状況が再び悪化すれば計画変更もあり得るとしており、「流動性」との付き合い方は日産と同じだ。世界の工場では、1社ごとに異なる生産網や在庫水準の違いが、そのまま「減速」と「再加速」のタイミングの差となって表れている。

組立ラインの音が完全に戻る日はまだ見通せないが、各社の現場では、工程表と世界情勢を照らし合わせながら、次の一手を静かに探る時間が続いている。