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ロシア南部ノボロシスク近郊の黒海沿岸にある大規模石油ターミナルが、29日未明に無人艇の攻撃を受けて操業を停止した。運営するカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)は攻撃を「テロ」と非難し、タンカーを海域外へ退避させた。欧米メジャーも関わるこのパイプラインの停止は、誰がどこまでリスクを負うのかという問いを突きつけている。
海上インフラが前線に 止まった「黒海の玄関口」
CPCによると、29日午前4時6分(モスクワ時間)、ターミナル沖合の係留設備「シングル・ムアリング・ポイント2」が無人艇の攻撃で大きな損傷を受けた。港湾当局はただちに積み込み作業を止め、ターミナル海域からタンカーを退避させたが、従業員や請負業者にけがはなく、原油流出も確認されていないという。
CPCのパイプラインはカザフスタン西部の油田からノボロシスクまで約1511キロを結び、世界の原油供給の約1%、カザフ産原油輸出の8割超を運ぶとされる。この「黒海の玄関口」が一時でも止まれば、産油国だけでなく欧州やアジアの市場にも波紋が広がる。
CPCは攻撃を「意図的なテロ行為」と断じ、脅威が去るまで荷役を再開しない方針を示した。ウクライナはロシアの戦費を削る狙いでエネルギー拠点への無人機攻撃を続けているが、今回のターミナル攻撃への関与については今のところ認めていない。黒海沿岸の住民にとっては、戦場から遠いはずの海が突如前線へと変わりうる現実が意識させられた形だ。
共同事業としてのCPC 制裁下でも守られてきた理由
CPCはロシアとカザフスタンの国営企業に加え、Chevron Caspian Pipeline Consortium CompanyやMobil Caspian Pipeline Companyなど欧米メジャーが出資する共同事業体だ。名目上はロシアのインフラでも、資本と原油の出所は多国籍であり、一つの攻撃が複数の国と企業の利害を同時に揺さぶる構図になっている。
実際、米国はロシア向けの油田サービスを広く制限する一方で、CPCとカザフスタンのテンギス油田を運営するTengizchevroilに関する取引については一般ライセンスで恒久的な例外を設けた。カザフ産原油がこのパイプラインに過度に依存していることから、供給途絶が世界市場全体の価格高騰につながるとの判断が背景にある。
それでもCPC関連施設は今年2月、クラスノダル地方の送油ポンプ場が無人航空機の攻撃を受け、一時的に輸送量が減る被害を経験している。今回標的となったのは海上ターミナルの係留設備で、2度の攻撃はパイプライン本体から港湾設備まで、供給網のどこも「安全地帯」ではないことを示した。
拡大するドローン戦と海のリスク 誰が備えのコストを負うのか
同じ時期、黒海ではロシアの制裁回避用タンカー「Virat」などが無人艇攻撃を受け、トルコ沿岸近くで損傷した。トルコ政府は自国の排他的経済水域で安全リスクが高まっていると警告しており、タンカーと港湾設備の双方が狙われることで海上輸送の保険料や運賃が一段と押し上げられる可能性がある。
CPCのような国際共同事業では、追加の防護設備や監視体制にかかる費用を誰がどの割合で負担するのかが今後の焦点となる。ロシアは自国領内の安全確保を名目に発言力を強めようとし、カザフスタンはコーカサス経由など代替輸出ルートの拡充を急いでいる。欧米メジャーにとっても、戦場から離れたインフラが紛争の延長線上に置かれる現状は長期的な事業リスクだ。
今回、幸いにも黒海への原油流出は報告されていないが、半閉鎖海域で大規模な事故が起きれば環境や沿岸経済への打撃は計り知れない。海上ドローンの拡散で前線から遠いはずの輸送インフラも「見えない戦場」となりつつある今、そのリスクとコストを誰がどこまで引き受けるのかという問いは産油国だけでなく消費国にも突きつけられている。
