性能6倍のH200が中国へ　ByteDanceとAlibabaが購入打診、開発環境が激変も

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2025.12.11

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米半導体大手NVIDIAのAI向け高性能GPU「H200」について、トランプ米大統領が中国への輸出を認める方針を示した。これを受け、中国のByteDanceとAlibabaが購入打診を行い、当局の許可と供給条件しだいで大量発注を検討しているという。これまで性能が抑えられた「H20」しか合法入手できなかった中国で、約6倍の性能を持つH200はAI開発の前提を塗り替えかねない。

中国IT大手が渇望する「計算力」と国内チップの壁

短動画アプリ「抖音（Douyin）」や生成AIサービスを展開するByteDance、巨大ECとクラウドを抱えるAlibabaはいずれも、大規模言語モデルや推薦アルゴリズムの高度化で膨大な計算資源を必要としている。両社は、現行の中国製GPUでは学習速度やモデル規模で世界のトップ水準に届かないとみており、H200を一括調達できれば自社サービスの精度と開発スピードを一気に引き上げられると期待している。

関係者によれば、2社は中国当局が輸入を認めれば大量注文に踏み切る構えだが、その前提としてNVIDIA側に供給計画や割り当て方針の説明を求めている。H200は台湾で製造されるNVIDIA第2位の高性能GPUで、これまで中国向けには性能を絞った「H20」しか合法輸出が許されてこなかった。推論や学習の処理能力がH20比で約6倍とされるH200を確保できるかどうかは、各社の次世代AI投資計画を左右する。

一方で、中国国内では既に一部の大学や研究機関、軍関連組織がH200や同等クラスのGPUを非公式ルートで入手し、大規模モデルの研究や医療・軍事用途に活用していると報じられている。今回の輸出解禁は、大手プラットフォーマーがこうした「グレー調達」に依存せず計算力を確保する道を開く半面、中小企業や研究機関との格差をさらに広げるリスクもはらむ。先端GPUがごく限られたプレーヤーに集中すれば、中国のAIエコシステム全体としての多様性が損なわれかねないからだ。

米国の譲歩とNVIDIAの「限られた玉」

トランプ大統領は12月8日、H200を「承認された顧客」に輸出することを認め、その売上の25%を米政府が徴収すると表明した。これは、国内半導体産業の競争力を維持しつつ、中国への最先端技術流出をどこまで許容するかというワシントンの長年の論争に、一つの決着を与えるものだ。商務省が輸出先企業を審査し、安全保障上の条件を付ける仕組みが導入される一方で、より新しいBlackwellやRubin世代のGPUは依然として対中輸出が禁じられている。

しかし、バイデン政権下で続いてきた厳格な輸出規制の間に、NVIDIAは生産能力の重点を次世代チップに移しており、H200の製造余力には限りがある。報道によれば、同社はデータセンター向けの最先端製品の供給を優先しており、中国向けには発売から一定期間が経過したロットのみを出荷するとの見方も出ている。世界中のクラウド大手やAIスタートアップが同じGPUを奪い合うなか、中国企業がどれだけの台数を確保できるかは不透明だ。

ByteDanceやAlibabaがNVIDIAに「明確な供給見通し」を求めているのは、その不確実性への懸念の裏返しでもある。輸出が形式上解禁されても、実際には米政府の審査プロセスや、台湾→米国→中国という物流経路がボトルネックとなり得る。NVIDIAにとっても、中国向けにどこまで枠を割きつつ、他地域の顧客や自社の長期戦略と折り合いをつけるかという難しいかじ取りが続く。足元の売上増と、地政学リスクや技術流出懸念をどうバランスさせるかが問われている。

国産化戦略と「外貨GPU頼み」――揺れる中国の選択肢

中国政府はここ数年、半導体やAI基盤技術の国産化を重要政策に位置づけ、Huaweiなど国内メーカーのGPU開発を後押ししてきた。米国による対中輸出規制が強まる中で、当局が企業に対し、可能な限り米国製チップへの依存を減らすよう促してきたとも報じられている。こうした方針からすれば、H200の輸入解禁は歓迎と同時に、国産化路線との整合性を問う動きでもある。

実際、中国の規制当局はインターネット大手やクラウド事業者を呼び集め、H200への需要や用途をヒアリングしているとされるが、軍事利用や監視用途など安全保障上敏感な分野への使用をどう制限するかは決まっていない。国家としては先端AI研究を遅らせたくない一方で、将来の制裁リスクを高めるような使われ方は避けたいという、相反する思惑を抱えている。輸入枠を限定し、クラウド経由のサービス提供にとどめるといった「折衷案」が模索される可能性もある。

ByteDanceやAlibabaにとっても、国産GPUだけに頼れば性能面で劣後し、H200に依存し過ぎれば政治リスクとサプライリスクを抱え込むというジレンマは避けられない。短期的には、限られたH200を最重要サービスや研究用途に集中配分しつつ、並行して国産チップの検証とソフトウェア最適化を進める「二正面作戦」が現実的な選択肢となりそうだ。H200解禁をきっかけに、中国のAI産業がどこまで外部技術に頼り続けるのか、それとも自前路線を加速させるのか。その岐路に立っているのは、政府だけでなく、日々モデルを回し続ける企業や研究者たちでもある。