NVIDIAが1000億ドル投資を否定　OpenAI提携は“最終合意前”と説明

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2025.12.03

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半導体大手NVIDIAのコレット・クレス最高財務責任者（CFO）が12月2日、生成AI「ChatGPT」を手がけるOpenAIへの最大1,000億ドル規模の投資について「まだ最終合意ではない」と説明した。9月に公表された両社の提携計画は、少なくとも10ギガワットのNVIDIAシステムをOpenAI向けに展開する前例のない構想だが、その中身はなお変動の余地を残す。AIサービスに依存する企業や利用者にとって、この「巨大な約束のあやふやさ」がどのようなリスクと選択肢をもたらすのかが問われている。

不確かな1,000億ドル計画が、AI利用の現場にもたらす影

クレス氏は米アリゾナ州で開かれたUBSグローバル・テクノロジー＆AIカンファレンスで、OpenAIへの出資枠について「最終契約には至っておらず、協議を続けている」と各紙の取材に対して説明したとロイターなどが報じている。表現を変えれば、9月に両社が示した枠組みは、いまなお「手紙レベル」の合意にとどまっているということだ。だが、ChatGPTやそのAPIに業務を乗せる企業にとっては、この曖昧さ自体が中長期のインフラ戦略を描きにくくする要因となる。

OpenAIとNVIDIAは9月、少なくとも10ギガワット規模のNVIDIAシステムを用いた次世代AIデータセンター群を構築する方針を明らかにし、その進捗に応じてNVIDIAが段階的に最大1,000億ドルを出資するとの書簡を交わしたとされる。第1弾となる1ギガワット分のシステムは、2026年後半に稼働開始が見込まれている。しかし、最終契約が固まらない限り、どの地域から優先的に立ち上げるのか、どの程度の期間で能力を積み上げるのかといった具体像は変わり得る。AIスタートアップや大企業の情報システム部門は、そうした不確実性を織り込みながら、自社サービスの拡張や料金設計を考えざるを得ない。

さらにクレス氏は、この枠組みに基づく将来の半導体供給は、同社がすでに公表している2026年までの約5,000億ドル規模の受注残には含まれていないことも明らかにしたとされる。つまり、OpenAI向けの巨大案件は、NVIDIAにとってもまだ「積み上がっていない」ボリュームだという位置づけだ。裏を返せば、OpenAI側が想定通りに利用者や売り上げを伸ばせなければ、計画のスケールダウンや時期の見直しもあり得る。そうした揺らぎを意識する開発者の一部は、OpenAIに加えて他社クラウドやオープンソースモデルを組み合わせることで、インフラ依存を分散させようと動き始めている。

投資と顧客が重なる構図、NVIDIAに向けられる視線

今回の発言は、NVIDIAとOpenAIの関係をめぐる市場の見方にも影を落とす。NVIDIAはすでにOpenAIの主要なGPUサプライヤーであり、9月の書簡では同社にとって最大級の戦略パートナーと位置づけた。一方で、ロイターや米Fortuneなどが指摘するように、NVIDIAはOpenAIだけでなくAnthropicなど他のAIスタートアップにも多額の出資を行っている。サプライヤーが顧客の株主にもなる「二重の関係」は、AIブームを支えるエコシステムの中で、期待と懸念を同時に呼び込んでいる。

懸念の1つは、いわゆる「循環取引」的な構図だ。半導体メーカーがスタートアップに出資し、その資金でスタートアップが再び同じメーカーの高価なチップを大量購入する――こうしたサイクルが、実需以上に市場規模を膨らませているのではないか、という疑問である。UBSなど一部の金融機関は、NVIDIAとOpenAIの提携が実現すれば長期的に巨額の売上をもたらすと分析する一方で、その前提となる「AI需要の持続性」を慎重に見極める必要があると投資家に注意を促している。

こうした問いかけに対し、クレス氏は米Axiosなどのインタビューで、NVIDIAのAI分野での優位は揺らいでおらず、AI市場はまだバブルではないとの見方を繰り返し示している。自社のプラットフォームに対する需要は依然として高く、複数の顧客・パートナーと長期契約を積み上げているというのが同社の主張だ。もっとも、通信機器やエネルギー分野でも、かつて設備メーカーが顧客の事業拡大をファイナンスし、その後の景気後退で一気に調整を迫られた事例は少なくない。AIインフラでも同様の構図が繰り返されるのかどうか、今回の1,000億ドル枠はその試金石となる。

巨大AIインフラ計画の行方と、残された選択肢

では、この枠組みが最終合意に至らなかった場合、あるいは規模が縮小された場合に何が起きるのか。まず影響を受けるのは、OpenAIが構想する「次世代AI工場」の立ち上がり時期だろう。10ギガワット規模のデータセンター群は、既存のクラウド事業者が運営する施設と比べても突出した規模であり、電力網や冷却技術への負荷も大きい。最終契約の遅れは、そうした周辺インフラの投資判断にも連鎖し、AIモデルの進化スピードやサービス料金の推移に影を落とし得る。

一方で、NVIDIAにとってもこの計画は数ある成長シナリオの1つにすぎない。OpenAIとの専用計画が思惑どおり進まなくても、他のクラウド事業者やAIスタートアップ向けの需要が補う余地はある。むしろ、1社に極端に依存しない形でGPU供給を分散させた方が、地政学リスクや規制強化への耐性は高まるとの見方もある。日本の企業にとっても、単一の海外AIプラットフォームに依存せず、複数のモデルやクラウドを組み合わせた「マルチAI戦略」を検討する動きが広がりつつある。

OpenAIとNVIDIAの提携は、実体経済に広く浸透しつつある生成AIインフラの中核を形づくる可能性がある一方、その枠組み自体はまだ固まりきっていない。クレス氏の「最終合意ではない」という一言は、AI時代の基盤づくりがなお試行錯誤の途上にあり、そのコストとリスクを誰がどのように分担するのかという問いが解決していないことを浮かび上がらせる。巨額の数字に目を奪われがちだが、その背後で進む静かな駆け引きこそ、今後のAI利用環境を左右する鍵になりそうだ。