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各国首脳が南アフリカへ向けて動き出すなか、そのテーブルに一枚の試算が差し出された。国際NGOオックスファムが2025年11月20日に公表した分析では、G20に属する億万長者の資産が直近1年で2兆2000億ドル増え、貧困線の下で暮らす約38億人を1年間支えるのに必要な1兆6500億ドルを上回るとされた。週末にヨハネスブルクで開かれるG20サミットを前に、この数字は議論の方向性に静かな圧力をかけている。
G20の富と「1年で終わる貧困」の計算
オックスファムが集計に用いたのは、経済誌フォーブスの長者番付だ。G20の19か国に籍を置く億万長者の保有資産は、2024年10月末の13兆4000億ドルから2025年10月末には15兆6000億ドルへと増え、1年間で16.5％、金額にして2兆2000億ドル膨らんだという。G20は19か国に欧州連合とアフリカ連合が加わる枠組みで、世界のGDPの約8割と人口の3分の2を占める。この数字は、一握りの資産家の動きでありながら、世界経済の重心を映し出している。
一方で、オックスファムは世界銀行などのデータを用い、現在貧困線の下で暮らす人びとを1年間その線の上に押し上げるのに必要な公的支援は1兆6500億ドルと見積もる。ここでいう貧困線は、1人1日8.30ドルで生活できる水準を示す指標で、各国の物価差をならした「購買力平価」に基づく。単純に比べると、G20圏の億万長者が過去1年で増やした資産だけで、この年間コストをまかなえる計算になる。もちろん実際には制度や政治の壁があるが、数字は富の偏りをはっきりと映し出している。
不平等パネル構想と債務危機という現実
今回のG20は、アフリカ大陸で初めて首脳会議を開く議長国として南アフリカが議題づくりを主導している。同国は各国の研究者らに依頼し、「世界的不平等に関するG20独立専門家特別委員会」を立ち上げた。委員長はノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏が務め、不平等の現状を緊迫した事態としてとらえる報告書をまとめたうえで、気候変動を科学的に評価するIPCCのように、不平等を継続的に検証する「国際不平等パネル」の設置を提案している。オックスファムは、この構想が実現すれば各国政府に行動を迫る新たな基盤になりうると評価し、G20首脳に支持を求めている。
不平等パネルの議論と並んで、オックスファムが強調するのが途上国の債務危機だ。国際通貨基金によれば、低所得国の半数以上が債務不履行かその瀬戸際にあり、約34億人が教育や医療よりも国の利払いに多くの予算が割かれる国で暮らしているという。G20は過去に債務再編の枠組みを作ったものの、手続きの遅さなどから利用国はごくわずかにとどまる。オックスファムは、15兆6000億ドルというG20圏の億万長者の保有資産に公正な課税を行い、その財源を債務減免や社会サービスの拡充に振り向けるべきだと主張する。ブラジル議長国だった2024年に合意された「超富裕層への国際課税協力」を、具体的な行動へと移せるかが問われている。
