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秋のペンタゴンで静かに書類が動いた。米国防総省が海軍の次世代ステルス艦載戦闘機「F/A-XX」を設計・製造する企業の選定に踏み切る。関係者によれば、ヘグセス国防長官が3日に承認し、発表は今週中にもあり得るという。長らく遅延してきた計画が動き出すことで、2030年代の空母航空戦力のかたちが定まり、インド太平洋の力学をも揺らす一歩となる。
何が決まるのか――新戦闘機の狙いと「今週」の山場
F/A-XXは、1990年代から運用されてきたF/A-18E/F「スーパーホーネット」の後継に据えられる見通しである。長大な作戦半径と滞空時間、被探知性の低さ、そして無人機や艦隊防空との高度な連接が要諦になるとみられる。空母という「動く滑走路」の限界を越えるため、機体単体の強さだけでなく、編隊や艦隊とのネットワークが勝敗を分ける設計思想がにじむ。
現在、受注を争うのはボーイングとノースロップ・グラマンの2社と伝わる。年初にはロッキード・マーチンが要件を満たさず競争から外れたとの報もあった。最終決定の権限は国防総省にあるが、海軍の運用構想と議会の資金配分が重なる地点で初めて歯車が噛み合う。3日に長官決裁が入ったことで、手続き面の滞りはおおむね解消した格好と映る。
一方で、海軍と国防総省はコメント要請に応じていない。現時点で確認されている範囲では、週内発表の可能性が高いが、過去にも土壇場での「差し戻し」があった。8日朝時点で正式発表は出ておらず、選定の行方は依然として霧の中だ。誰に有利なのか、偶然か必然か。艦上の風を読むのは容易ではない。
遅延の背景――資金攻防と人員・開発力の不安
計画は春から夏にかけて資金を巡る綱引きで止まっていた。国防総省は暫定的に7400万ドルの「極小開発費」を求めたが、議会側は前のめりに7億5000万ドルを大型歳出法に組み込み、さらに2026年度向けに14億ドルの積み増しを示した。予算の歯車が噛み合ったことで、今回の「今週中」へと雪崩れ込んだ構図が浮かぶ。
ただし資金だけでは動かない。不安視されたのは開発リソースだ。ボーイングには空軍の新型機契約を抱える中での技術者確保、ノースロップには大規模核戦力更新で膨らむコスト管理という課題がのしかかる。工程遅延が積み上がれば、2030年代に空母から運用できる近代的な制空機が途切れ、艦隊の戦力投射に空白が生じかねないという危惧が広がっている。
海軍の実戦部隊は当面、スーパーホーネットとF-35Cを併用しながら戦力を維持する。米海軍の第5空母航空団は昨年、ネバダでの訓練でF/A-18とF-35Cを統合運用し、遠距離での目標探索から打撃までを一気通貫で磨き上げた。現行戦力の底上げと次期主力の立ち上げを同時並行で回す二正面作戦こそが、遅延リスクを抑える唯一の道とみられる。
勝者は誰か――企業の事情と同盟への波紋
ボーイングは長年の艦載機メーカーとして空母運用の知見が厚い。一方、ノースロップはB-2やB-21で培った低被探知性とシステム統合力が強みだ。どちらが選ばれても、制空の主戦場は機体そのものから「有人・無人混成のチーム戦」へと軸足が移る。年初に競争から外れたロッキードも、F-35Cの調達が270機超で続く見込みで、海軍航空の主役はしばらく三者併走が続く構図だ。
同盟国の視線も熱い。空母打撃群の航空優勢は、抑止の説得力と直結する。仮にF/A-XXの工程が長期化すれば、同盟運用の節目ごとに戦力計画の見直しが連鎖しかねない。逆に、選定が滑らかに進み、2030年代半ばに初号機が戦力化の目処を得れば、インド太平洋でのプレゼンスは厚みを増す。日本を含む同盟側の艦載航空の将来像にも波紋が広がっていく。
決定のカギは、性能だけでなく「作れるか」「間に合うか」にある。資金、サプライチェーン、試験評価の全てで現実解を積み上げた企業が勝者になる。発表は一両日中ともささやかれるが、公式の口は固い。今はまだ、甲板の向こうに新世代のシルエットがかすむだけだ。
