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ペルーの司法当局は27日、2022年に議会の解散を一方的に宣言して失職したペドロ・カスティジョ元大統領に対し、反乱の共謀にあたる罪で実刑約11年半を言い渡した。検察側は34年の重刑を求めていたが、裁判所はこれを大きく下回る量刑を選んだ。相次ぐ大統領の失脚に揺れてきた同国で、この判決は市民の暮らしと民主主義の行方にどんな意味を持つのか。
地方の期待と失望、繰り返される政治危機の中で
カスティジョ氏は2021年、地方の教師出身として「忘れられた農村の声」を掲げて大統領に就いた。しかし2022年12月、弾劾採決を前にテレビ演説で議会の解散と憲法改正のための制憲議会を一方的に宣言し、治安部隊や司法から支持を得られないまま、その日のうちに罷免・拘束された。今回の判決は、その「自らのクーデター未遂」とされた行為をどう評価するかを問う場でもあった。
逮捕後には、同氏の支持基盤が多い南部や山間部を中心に抗議行動が広がり、多数の死傷者が出た。首都リマから遠い地域の住民ほど、「また首都の政治エリートが地方の代表を排除した」と感じてきた経緯がある。司法判断そのものは議会と独立した手続きだが、判決が「地方対首都」「エリート対庶民」という既存の分断を一段と深める懸念も拭えない。
元大統領たちが並ぶ「大統領刑務所」が映す制度のひずみ
今回、裁判所はカスティジョ氏を「反乱そのもの」ではなく、その手前段階の共謀罪で有罪とし、11年5カ月15日の実刑と公職停止を科した。本人は政治的な迫害だと主張しており、判決は上訴可能だ。一方で検察は、権力の私物化や憲法秩序の破壊を重く見て34年の長期刑を求めており、「どこまでが政治闘争で、どこからが刑事責任なのか」という線引きの難しさが浮かぶ。
同じ週には、マルティン・ビスカラ元大統領が州知事時代の汚職で14年の実刑判決を受けたばかりだ。リマ近郊のバルバディージョ刑務所には、トレド氏やウマラ氏ら複数の元大統領が既に収監され、「歴代大統領のたまり場」とも呼ばれている。汚職や権力乱用への厳しい追及は説明責任の表れとも取れるが、選挙で選ばれた指導者が次々と刑事被告人になる状況は、制度そのものが政治危機を十分に防げていない現実も示している。
揺れる民主主義の先に残る選択肢
今後、カスティジョ氏側が上級審に訴える中で、裁判手続きの透明性や司法の独立性は一段と厳しく問われるだろう。他方で、頻繁な弾劾と政権交代が続いてきたペルーでは、「望まない指導者を選挙で交代させる」という本来の民主主義のメカニズムが弱まり、代わりに議会と裁判所が主戦場になっているという指摘もある。政治の行き詰まりを法廷に持ち込む構図が固定化すれば、裁判そのものへの信頼も揺らぎかねない。
市民にとって切実なのは、誰が大統領か以上に、経済や治安が安定し、自らの声が政治に届くかどうかだ。弾劾規定の見直しや政党改革、地方の代表性を高める選挙制度の設計など、必要とされる制度改正は多い。それでもなお、街頭で抗議した人々の犠牲や、繰り返される政変の記憶が重く残る中で、この判決は「責任をどう問うか」を示しつつも、信頼をどう取り戻すかというより難しい課題を先送りにしているように映る。
