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国会内の薄い灯りが伸びる廊下に、足音がほとんど響かなかった。2025年10月16日、衆院の議院運営委員会理事会は主要野党が出席せずに流会となり、首相指名選挙の日程が固まらなかった。臨時国会召集が21日に迫るなか、政権の枠組みを巡る駆け引きが会期設計そのものを揺らしていると映る。
日程決まらず、静けさが増す永田町
理事会は与野党の実務責任者が手続きを詰める場であり、首相指名の時刻や本会議の運びを最終確認する舞台である。ところが16日、立憲民主、日本維新の会、国民民主の3党の理事が「政権枠組みを巡る協議が続いている」として席に着かず、協議は流れた。議場周辺はいつになく静かで、各会派控室ではテレビのニュースが低い音量で流れるばかりという空気が広がった。
自民党の村井英樹・与党筆頭理事は流会後、記者団に「首班指名の日程の決定を遅らせることは、立法府としての責任をないがしろにするものだ」と語り、野党側の対応を強く批判した。自民は臨時国会召集日の2025年10月21日に指名選挙を実施したい構えだが、野党欠席による理事会不成立で歯車はかみ合っていない状況が続くとみられる。
15日までに衆参の実務協議が大枠で一致していないとの報道も出ており、スケジュールの不確実性は前日から兆していた。16日の流会は、その不透明感を現実のものにした格好だ。与党は「召集日に実施」の方針を崩していないが、野党側は政策合意や国会運営の前提整理を優先させたい思惑がにじむ。
憲法が指し示す「首相指名は最優先」
日本国憲法は、内閣総理大臣の指名は国会の議決によると定め、その手続は「他のすべての案件に先だって」行うと明記している。政治的駆け引きがあっても、国会の最初の大仕事は首相の選出であるという原則だ。この規定は政権移行や内閣総辞職のたびに立ち上がり、これまでも本会議運営の最優先事項として扱われてきた経緯がある。
さらに、衆参で異なる人物を指名した場合、両院協議会でも一致しなければ衆院の議決が国会の議決となる。過去の政権交代期にはこの仕組みが機能し、下院優越のもとで首相が指名された例が複数ある。制度は混乱回避の安全弁を内蔵しており、最終的に政治空白を長引かせない設計になっているといえる。
つまり、理事会での設計が難航しても、召集日当日の与野党協議や議長裁定で道筋がつく余地は残る。他方で、議事運営の信頼は積み上げの産物であり、手続きの遅れは国会全体の統治能力に疑問符を付けかねない。憲法の原則と現場の政治判断、その接点をどう描くかが問われている。
21日実施へこだわる与党、構図を探る野党
与党は21日の首相指名で新体制を素早く発足させ、補正予算や人事案件に機動的に着手したい思惑がある。一方、主要野党は連携の射程や政策接点を見極めつつ、首相指名での対応を含めて駆け引きを続けている。15日時点で委員会日程の合意に至っていないとの報は、双方の隔たりの根深さを物語る。
仮に21日に指名選挙がずれ込めば、所信表明や代表質問など、その後の通常の流れは玉突きで後ろへ動く。国会が抱える課題は景気や物価、外交安保、人事承認まで幅広く、初手のもたつきは秋の審議全体に影を落とす。与野党がいかに着地点を見いだすかで、政治の呼吸は大きく変わるとみられる。
現時点で確認されている範囲では、与党は召集日実施への強い意欲を崩していない。野党側は政権枠組みや議事運営の前提条件を固めることを優先しつつ、首相指名での対応を探る局面だ。静けさの増す永田町に、21日という期限が刻一刻と近づいている。
