ラマポーザ大統領が警告　「白人優越」思想が国家統合を揺るがすと指摘

南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は８日、与党アフリカ民族会議（ANC）の会合で演説し、「白人の人種的優越」を掲げる思想が、アパルトヘイト後の国家統合と主権、外交関係を揺るがしていると警告した。白人が組織的に迫害されているとする主張は「虚構」であり、国内外でこれを否定する取り組みが欠かせないと訴えた。

「白人迫害」論に反論、主権を脅かすと警告

ラマポーザ氏は、依然として一部の市民が人種的優越感と白人特権の維持に固執していると指摘した。その考え方は、白人アフリカーナーが標的にされていると訴える運動と結び付き、「白人が被害者だ」とする物語を国内に持ち込んでいるという。歴史的に政権を握ってきたこの少数派は、いまも社会的・経済的な影響力を保っている。

こうした主張は、近年米国や欧州の極右政治家が唱えてきた「白人虐殺」陰謀論とも重なる。ラマポーザ氏は３月の週間メッセージでも、特定の人種や文化が迫害されているとする見方は「完全な虚構だ」と述べ、国民同士を分断させる危険な言説だと強調していた。

今回の演説で同氏は、虚偽の迫害ストーリーが南ア社会の和解を損ない、治安悪化への恐怖をあおるとともに、主権国家としての正当性や安全保障にも影響を及ぼしていると指摘した。そのうえで、国内だけでなく世界規模で誤情報に対抗するキャンペーンを展開する必要があると呼びかけた。

トランプ政権との対立、G20と貿易にも波紋

ラマポーザ氏の発言の背景には、米トランプ政権との緊張激化がある。２週間前、トランプ大統領はヨハネスブルクで開かれたG20サミットを欠席し、南ア政府が白人少数派を虐待し、白人農場主が「殺され土地を奪われている」と根拠なく非難した。ホワイトハウスは、南ア政府が白人への暴力を黙認し、土地収用法制で白人農家を追い出そうとしていると主張している。

ロイター通信によれば、サミットの議長国である南アが、米国抜きでも首脳宣言を取りまとめたことに対し、米政府は強い不満を示し、来年米国で開かれる次回G20から南アを外すと警告した。トランプ氏は今年２月にも、同様の主張を根拠に南ア向け開発援助の削減を決定している。

米国は欧州連合、中国に次ぐ南アの第３の輸出相手国であり、トランプ政権は南ア産品に３０％の輸入関税を課しているとされる。ラマポーザ氏は、双方に利益となる通商合意を模索しつつ、輸出市場の多角化を急がざるを得なくなっていると説明した。

情報戦の最前線に立つ南ア、和解の行方

白人迫害や「虐殺」を訴える物語は、長年インターネット上の極右コミュニティで拡散してきた。欧米の一部共和党議員や右派政党にとっては、移民や多文化共生への反発を正当化する材料ともなっており、南アの現実とは異なるイメージが国境を越えて独り歩きしている。

実際には、白人農場主を狙った凶悪犯罪が起きているものの、英紙ガーディアンや欧州メディアの調査では、白人だけが体系的に標的とされている証拠は見つかっていない。人口の約４％にすぎない白人層が、依然として土地と富の大半を握るという構造も残っており、犯罪被害の多くは黒人など他のコミュニティにも及んでいる。

ラマポーザ政権は、こうした誤情報に対抗することが、アパルトヘイト後に築いてきた「虹の国」の理念を守ることにつながるとみている。だが、外交や通商が圧力の手段として使われる中で、情報戦は今後も激しさを増す可能性が高い。南ア社会の対話と和解の試みが、国際政治の思惑やネット上の扇動よりも強い力を持てるのかが問われている。

参考・出典

• White supremacy notion threatens South Africa’s sovereignty, president says
• White supremacy notion threatens South Africa’s sovereignty, president says
• White racial superiority is the real threat to South Africa – Ramaphosa
• False claims Afrikaners are persecuted threaten South Africa’s sovereignty, says president
• South African president rejects claims of Afrikaner persecution