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地図を広げた机の上で、管路の色が合流していく。国土交通省が、市町村ごとに分かれてきた上下水道の運営を束ね、複数自治体による統合・広域化を国主導で進める方針を固めた。来年度に新たな補助制度を創設し、県単位や数十万人規模の一体運営を後押しする狙いだ。老朽化や人手不足に直面する基盤を、持続可能なかたちへと組み替える。
統合を押し出す新制度の骨格
今回の柱は、統合・広域化に踏み出す自治体の投資を直接支える仕組みである。対象は浄水場や下水処理場の建て替え・再配置、自治体間をつなぐ管路の連結、老朽管の更新などの要となる部分だ。広域化（複数の自治体が施設や運営を一体化して効率化する取り組み）に合わせ、管理の一元化や設備の集約も支援する方向とされる。
制度設計では、負担と効果のバランスを踏まえ、上水道と下水道で支援割合に差を設ける案が検討されている。管路更新や処理施設の高度化は一度に大きな資金を要するため、補助が入れば更新の平準化や投資の前倒しがしやすくなる。過度な料金上昇を避けながら、更新計画を着実に進める現実的な打ち手となる。
支給要件には、統合後の人口規模やエリアの一体性といった観点が盛り込まれる見通しだ。一定の人口基盤を確保できれば、維持管理の固定費を広く分かち合える。制度が具体化すれば、当初予算での手当てを起点に、段階的な統合の道筋が描かれる。設備投資だけでなく、運転・保全の標準化や人材育成まで視野に入れた総合策となるはずだ。
なぜ広域化なのか
背景には、人口減少で料金収入が細るなか、資材費や人件費の上昇が重なり、更新投資の遅れが顕在化している現実がある。とりわけ管路は目に見えにくく、劣化が進んでも気づきにくい。個々の自治体が単独で必要額を捻出し続けるのは難しく、料金の急激な引き上げに踏み切る例も出てきた。事業の持続性を守るには、仕組みから変える必要がある。
広域化は、同種の設備や業務を束ねることで重複を減らし、保全の優先順位付けを全体最適に近づける効果がある。共同発注（複数自治体が工事や資器材をまとめて契約する方法）で単価を抑え、監視や運転を集中化すれば、人手が限られても品質を保ちやすい。専門技術者を確保しづらい小規模事業体にとっても、広域のチームに参加する道が開ける。
災害対応の面でも、系統同士をつなぐことは大きい。隣接するブロックからの緊急融通や迂回送水が可能になれば、単独システムの脆弱性を補える。計画的な耐震化と合わせてネットワークの冗長性を高めることは、復旧の初動を早め、断水や越流の長期化を防ぐうえで有効だ。広域化はコストだけでなく、レジリエンスを底上げする基盤整備でもある。
広がる先行例と、これからの宿題
すでに一部では、県単位で水道を束ねる動きが進み、要となる施設の役割分担や工事の平準化が始まっている。複数の市町村が水道企業団に移行し、さらに県域の組織へ参画する例も出てきた。小規模事業者が単独では手を付けにくい更新・耐震化を、広域の計画に乗せることで前に進める構図だ。今回の国の後押しは、こうした芽を面的な広がりへと導く。
一方で、下水道は処理区域や放流先の制約が大きく、統合の設計が上水道より難しい局面もある。処理能力の再配分や汚泥処理の共同化、管路更新の優先順位付けなど、現場ごとに解くべき条件が違う。制度は横串の枠組みを与えるにとどまり、詳細設計は地域のデータと合意形成に委ねられる。運転・保全の標準化と、柔軟な例外設定の両立が鍵になる。
料金や負担の一本化も難所だ。統合のメリットは長期で現れるが、移行期には負担の偏りが生じやすい。費用配分のルールや成果の見える化を丁寧に整え、住民への説明を繰り返すことが不可欠である。広域化は目的ではなく、老朽化対策と人材確保を持続させるための手段だ。新制度がその背骨となり、地域に合った形で息づくかが試される。
