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政府内の打ち合わせが相次ぐなか、物価高対策の目玉候補として「おこめ券」の活用が浮上している。総合経済対策に盛りこみ、自治体が使途を決める重点支援地方交付金を拡充して、国の推奨メニューとして明記する案だ。米価の高止まりが家計と産地の双方に影を落とす中、高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」の色をどうにじませるかが焦点となる。
進む「おこめ券」検討、何が変わるか
政府は近く総合経済対策を取りまとめる段取りで、鈴木憲和農林水産相が唱える「おこめ券」の活用を柱の一つとして検討に入った。券面はコメなどの購入に充てられる想定で、交付金の拡充と組み合わせて自治体が配布・運用する設計が軸になる。これまで現金やプレミアム商品券が中心だった支援に、食卓に直結する領域を狙い撃ちする狙いがにじむ。
配布の形は紙の券だけに限らない。電子クーポンや他の食料品にも使える商品券と組み合わせ、対象を広げる案も浮上している。名称や見せ方でコメを前面に出すかどうかも、地域の事情に合わせて柔らげる余地を残すという。制度の器は既存の交付金を活用するため、対象要件の線引きや配布事務の負担を最小限にとどめられる利点がある。
一方で、配布に踏み切る自治体がどれだけ広がるかは未知数だ。財源の増額は予定されるが、地域の課題は光熱費支援や子育て施策などと競合する。国が「推奨する使いみち」として示しても、現場での優先順位づけはそれぞれの地域経済に委ねられる。制度の柔らかさが強みである反面、効果の見え方は地域によってばらつく可能性がある。
米価の高止まりと、前政権からの軌道修正
米価は5kgで4000円を超える水準が続き、子育て世帯や年金生活者の負担感を押し上げている。高市政権はこの実感に応える形で家計直撃のコストを和らげたい意向を示してきた。新体制の初の経済対策で「台所に届く」政策を印象づけられるかは、物価高の長期化で薄れた支援の手触りをどう取り戻すかにも重なる。
前政権期には、備蓄米の放出で市況を冷ます対応がとられ、産地の一部からは価格形成への介入色をめぐる反発も上がった。市場の安定と生産現場の持続性、その両立の線引きはなお難しい。価格は市場で決まるとの考えを軸にしつつ、家計負担への配慮をどう噛み合わせるか。支援の打ち出し方は、価格政策とは異なる「消費面からのてこ入れ」に重心を移す局面に来ている。
鈴木氏は就任当初から、低価格帯商品の選択肢が乏しいことを課題に挙げてきた。多様な価格帯を育てるには、生産から流通、販売の工夫まで時間がかかる。消費を下支えするクーポンは、あくまで当面の橋渡しにとどまるという見方も根強い。短期の家計支援と併走させる形で、作付けや流通の投資をどう後押しするかが問われる。
交付金の裁量が左右する現場の景色
重点支援地方交付金は、国が財源を用意しつつ使い道の決定を地方に委ねる器だ。今回、国は「おこめ券」を推奨メニューとして示す方向だが、採否や配布方法は各自治体の判断になる。家計への浸透を早めるには、地域の店舗網や券の換金体制、電子クーポンの受け皿づくりといった実務の詰めが欠かせない。制度は同じでも、運用次第で効果は変わる。
実際、物価高対策で「おこめ券」を全世帯に配布する自治体も出ている。例えば東京都内では、一定の配布単価を設けて世帯構成に応じて配る設計をとった例がある。既存の流通網を使うため立ち上がりが比較的早い一方、券面の使途が限定されるという性質は残る。地域の実情に合わせて、紙と電子の併用など柔軟に設計する動きが続く。
家計に届くまでの道筋は見え始めた。あとは、対象の絞り方や配布頻度、店舗側の事務負担をどうならすかという細部だ。支援の名目よりも、受け取る側の使い勝手や地域の商いの流れに寄り添えるか。静かな繁忙が続く庁舎の廊下で、その設計図が少しずつ形を帯びている。
