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記者席のざわめきが一瞬静まり、木原稔官房長官が紙面を確認して口を開いた。2025年11月7日、ロシア当局が8日から12月1日まで色丹島付近の海域で射撃訓練を行うとの航行警報を出したという。政府は直ちに外交ルートで抗議し、「北方四島での軍備強化はわが国の立場に反し、受け入れられない」との姿勢を示した。訓練は漁業や航行の安全判断に影響し、停滞気味の対話にも影を落とす。
色丹島近海での射撃訓練通知と日本政府の抗議
会見室で木原氏は、海域の一角で射撃が計画されていると説明した。対象は色丹島の周辺水域で、航行者に注意を促す形式の警報だという。翌日から始まり、月替わりまで続く枠組みとされ、期間内は時間帯や区域の指定が段階的に示される可能性がある。航路選定や操業計画に柔軟さが求められる場面が増えそうだ。
政府は警報を把握した段階で抗議に動いた。「北方四島におけるロシアの軍備強化は受け入れられない」との従来の立場を改めて伝え、訓練に関する情報の透明性と周辺海域の安全確保を求めた。領土と安全保障、そして地域の生活が交差する問題だけに、語気を強めるよりも淡々とした説明が続いたのが印象的である。
今夏以降、周辺では訓練や通告が相次いできた。先月には無害通航の一時停止を告げる動きもあったとされ、各種の制限が重なる局面が生まれている。現時点で確認できる範囲では、今回も航行警報の形式に沿うが、区域設定の仕方や頻度は変化してきた。海図と通知を突き合わせる作業が繰り返される。
海域制限がもたらす揺らぎ
根室をはじめ沿岸の漁業者は、操業の可否だけでなく帰港のタイミングにも神経を使う。射撃予定が示されると、操業線の引き直しや網の手当てが必要になるからだ。小型船は天候と潮流に加え、訓練区域の縁を読んで動く。港で準備に追われる手つきは早いが、無理は避けるという判断が優先される。
国際法が認める無害通航権は、沿岸国の秩序や安全を害さない限りの通航を原則とする。しかし周辺では、これに関わる通告が出て緊張が高まった局面もあった。法の文言がそのまま海図に落ちるわけではない。現場では「どこを、いつ、どう通るか」を具体の運航計画に翻訳し、危険を避ける判断が積み重なる。
海保や関係機関は、航行警報や注意喚起を重ねて配信し、船舶は避航や減速などの措置をとるのが通例だ。大型船は余裕を持った針路変更が可能でも、小型船は天候が崩れれば選択肢が狭まる。安全第一の原則は変わらないが、操業の採算や生活の段取りには微細な揺らぎが走る。海上の一枚絵には映らない動きである。
交渉の座を遠ざける動き
北方領土を巡る交渉は長く停滞してきた。軍事訓練や通航の制限が積み重なると、相互の不信が厚みを増し、政治のテーブルはさらに遠くなる。政府は「対話の窓口は開き続ける」との構えを崩していないが、現場に流れる時間は待ってはくれない。地図上の線引きが、人の移動や商いの呼吸に直結している。
