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大分市佐賀関で続いていた大規模火災について、市の災害対策本部は28日、住宅地が並ぶ半島部分の火が完全に消えたとして「鎮火」を発表した。18日夕の発生からおよそ10日、約170棟が焼けた町では、いまも100人以上が避難所で暮らす。鎮火の安堵と同時に、「ここで再び生活を築けるのか」という新たな問いが住民の前に立ち上がっている。
避難所から見える“日常”への長い道のり
火災は11月18日夕方、海に突き出た半島の住宅密集地で起き、強い風と乾いた空気のなかで一気に燃え広がった。28日に半島部の火は消し止められたが、佐賀関公民館などの避難所にはいまも100人余りが身を寄せる。駐車場には別府から移動式の温泉施設が運び込まれ、湯気の立つ浴槽が、失われた日常のごく一部だけを一時的に取り戻している。
大分市や専門機関の調査では、住宅や店舗を含むおよそ170棟が焼損し、焼け跡は約4万8900平方メートルに及ぶ。近年の国内の市街地火災としては最大級の被害規模で、家と店を同時に失った世帯も少なくない。黒く焦げた鉄骨や、形を失った瓦の山の間を、住民が必要最低限の荷物を探して歩く光景は、数字だけでは伝わらない喪失の深さを物語る。
それでも市のアンケートでは、被災した約130世帯のうち回答した70世帯の半数が、仮住まいの場所として佐賀関を選びたいと答えた。長期的な生活再建でも「できればこの町で」と望む声は多い。鎮火の先にあるのは、焼け残ったつながりと記憶を土台に、どこまで元の暮らしに近づけるのかという、時間のかかる選択だ。
空き家と人口減少、延焼を広げたまちの脆さ
今回の火災では、焼けた約170棟のうちおよそ70棟が空き家だったと大分市は明らかにしている。地域防災を研究する大学の専門家は、老朽化した木造の空き家は燃えやすく、内部の状況も把握しにくいため、ひとたび火が入ると周囲への延焼を加速させると指摘する。人口減少で居住者が減った地区ほど、建物が密集していても目が届きにくくなるという逆説的な弱さがある。
高齢化した沿岸集落では、家を解体する費用が負担となり、使われなくなった住宅がそのまま残るケースが多い。佐賀関でも、かつて漁業や商いでにぎわった通りに空き家が並び、その一部が燃え広がりの「足場」になった可能性がある。市は現在、被害状況と土地利用を詳しく調べつつ、災害救助法の適用や寄付金を活用した復旧支援の枠組みづくりを進めている。
一方で、現場ではドローンによる熱源確認や立入規制の段階的な緩和が続き、ようやく半島部の鎮火宣言にこぎ着けた。発災直後の「消すフェーズ」から、住まいや町並みをどう再編するかという「つくり直すフェーズ」へ、行政の関心は移りつつある。しかし、避難所で不安を抱える住民にとっては、その移行のスピードが暮らしの実感とずれて見える場面も少なくない。
沿岸のまちに共通する問いとして
2016年の新潟県糸魚川市の大火でも、商店や住宅が密集した沿線部で炎が一気に広がり、約150棟が焼けた。今回の佐賀関の火災はそれを上回る焼損棟数となり、木造家屋が寄り添う港町のもろさを改めて浮かび上がらせた。冬場の乾燥や強風が重なれば、1軒の出火が短時間で集落全体の危機につながることを、私たちは再び突きつけられている。
全国の海沿いの小さなまちには、同じように空き家と高齢化が進む地区が少なくない。消防団員の確保や防火水槽の維持も難しくなるなか、どこまで危険な建物を減らし、どこからは「住み続ける」ことを支えるのか。佐賀関の被害は、単なる一地域の不運ではなく、地方の暮らしをどう守るかという共通の課題として受け止める必要がある。
鎮火が告げられた今、佐賀関で問われているのは、地元に残りたい人の思いと、安全なまちづくり、そして限られた財源や人手との折り合いをどうつけるかだ。空き家対策や復興計画を「次の災害」に備える仕組みとして組み立てられるかどうかは、同じ悩みを抱える多くの沿岸集落の未来も左右する。その意味で、この小さな半島の決断は、日本の地方社会にとって静かな試金石となる。
