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家計に秋風が吹く。民間調査の集計では、2025年10月の飲食料品は3千品目超の値上げが見込まれ、春の山場に続く“第2波”が訪れる情景だ。通年でもすでに2万品目を突破し、前年を大幅に上回るペースが続く。値上げは単発の出来事ではなく、生活の背景に溶け込みつつある。数字の連なりが示すのは、物価の粘り強さと、その裏側にある国内コストの重さである。
10月は再び「値上げの秋」に
9月の集計段階で、10月の食品値上げは今年4月以来の3千品目台という見通しが示された。前年同月を上回る状況は9カ月連続で、勢いは衰えない。分野別では、焼酎や清酒、リキュールのほかペットボトル飲料などを含む「酒類・飲料」が厚い山を作る。春の局面では調味料や冷凍食品が先頭に立ったが、秋は飲料や酒類が押し上げ役へと代わる構図だ。
背景には、今年の値上げが「見込み」ではなく「前提」として積み上がっている現実がある。4月に大規模な値上げが波となり、夏場もペースが落ちぬまま秋へとつながった。各社が年初から通年のコスト計画を織り込み、販路や在庫の調整を進めるなか、10月はその集大成として設定されやすい。季節要因に加え、新製品の切り替え時期が重なることも波を高くする。
通年ではすでに2万品目超が公表済みで、2023年に次ぐ規模へ近づく。単月での大波が目立つ年に比べ、今回は中波が連続するように続くのが特徴だ。買い物かごの中で「少しずつ、しかし確実に」負担が増える実感が伴う。4月と10月の山は目を引くが、波間のうねりが家計の呼吸をじわりと奪う。
内的要因が主役に変わった
物価を押し上げる主因は、為替や原油の外的ショックから、国内の粘着的なコストへと重心を移した。原材料の高止まりが土台にある一方で、物流や人件費、光熱費が広範囲に積み上がる。夏のレポートでは、値上げの要因に占める「原材料高」が9割台と圧倒的だったが、「物流費」や「人件費」も半数超で名を連ね、複合要因の色合いが濃い。
物流では「2024年問題」後の人手不足が尾を引き、積み替えや中継の増加でコストが上がる。運賃表の見直しは一過性ではなく、契約更新のたびに定着を強める。人件費も同様だ。2025年度の最低賃金目安は全国加重平均で1118円、引き上げ率は6％となり、価格転嫁の必要性は一段と高まった。生産現場から小売の棚まで、国内の賃金構造が価格体系に織り込まれる段階に入った。
光熱費の再上昇も、製造と流通の双方で効く。調味料や加工食品の釜場で使う蒸気、飲料のボトリングライン、冷凍・冷蔵の保管網など、電力と熱のコストが細部にまで浸透する。単発の輸入価格高よりも、持続的な固定費がじわじわ効いてくる構図であり、企業の「一度上げた価格を下げにくい」体質を強める。
売り場の節約ムードと、企業の新しい常態
売り場では、価格据え置きや容量差別化の巧拙が選ばれる。実質賃金が伸び悩んだ期間が長かったこともあり、消費者は単価と満足度の「落としどころ」を冷静に探す。PBへのシフトや、特売日のまとめ買いなど、節約の手触りは濃い。負担は確かに重いが、支出の配分を変えることで、家計は波をいなし続ける。
一方でメーカーは、単発の「値上げ実施」ではなく、継続的に価格を見直す運用へ舵を切った。調達・生産・物流の各工程で生じるコストを定期的に棚卸しし、価格と容量、販促の三点を組み合わせる。これが浸み込むほど、価格改定はニュースから日常のルーティンへ変わる。小売もエブリデイロープライスと点の特売を織り交ぜ、値札を通じた対話を磨く。
消費者心理の反発は根強い。価格に説得力を持たせるには、品質や利便の上積み、持続可能性への投資など、価値の提示が欠かせない。単なるコスト転嫁ではなく、納得の土台を積み上げることが試される。値上げの「常態化」は、企業の説明責任の「常態化」と表裏一体の課題である。
年末への視線—小休止はあるか
先行きは、年末にかけて一部の波が落ち着く可能性が指摘される。とはいえ、今年の値上げは通年計画の積み上げが特徴で、季節の谷は浅い公算が大きい。2022年のような突出は見えにくいが、2023年に次ぐ規模感が意識される。秋の山を越えても、価格のベースラインが一段上がった感覚は、しばらく続く。
注視すべきは、物流と人件費の二つの粘着要因だ。前者はドライバー不足と人件費の底上げが直結し、後者は春以降の賃上げが時間差で製品価格に波及する。円相場や原油の揺れは従来通りの不確実性を残すが、国内コストの圧力が基調を形づくる。価格は行って来いではなく、段を上げながら横ばいへ—そんな均衡を探る局面に入った。
家計の視点では、支出の優先順位を定期的に見直し、単価と容量のバランスを比較することが防波堤になる。企業の視点では、値上げの先にある関係性の設計—品質、利便、サステナビリティの提示—が、次の選択を左右する。10月の山は、長い坂道の途中に置かれた道標にすぎない。数字の向こうに、持続可能な価格と納得の形を描けるかが問われている。
