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片山さつき財務相が公邸での協議を終え、記者団に向き直って「規模的には17兆円より大きくなる」と語ったのは2025年11月16日である。物価高対応を柱とする2025年度補正予算案に、減税策を束ねて厚みを持たせる構えだ。政府は与野党との調整を経て、2025年11月21日にも経済対策を閣議決定し、今国会での補正成立を目指す見通しだ。
広がる家計支援のかたち
焦点の1つが、自治体が自由度高く使える「重点支援地方交付金」の拡充である。地域でプレミアム商品券やおこめ券を配し、暮らしの痛みが強いところへ素早く資金を届ける狙いだ。事務の設計や販路の確保まで一体で支えることで、中小の小売や飲食にも波及させる構図が描かれている。地域に預け、地域で回す。分厚い対策の中で、この回路は今年も太く保たれる。
公共料金の負担緩和も柱となる。電気・ガス料金の一時的な補助を年明けの一定期間に再開し、冬場の家計の山をなだらかにする案だ。単価の目減りは緩やかでも、請求書の明細に効く設計にすれば可視性が高い。燃料価格の変動が大きい時期ほど、補助のオン・オフを機動的に使えるかが肝になる。前回の実施で得たデータを活用し、対象や期間を絞り込むことが鍵となる。
一方で、財政の持続性への目配りも欠かせない。足元の物価に対応する家計支援と、中期の成長力を底上げする投資の配分をどう整えるか。政府は「責任ある積極財政」の旗の下で、危機対応と成長投資の両立を掲げる。地方交付金の拡充と公共料金の補助は短期の安心をつくり、災害対応や安全保障分野の支出は中期の備えとなる。対策の厚みは、その組み合わせの精度で決まる。
税制の見直しが後押し
今年は税制面の変化も家計を支える。いわゆる「年収103万円の壁」は、税制改正で160万円へ引き上げられた。配偶者控除や給与所得控除の見直しにより、働き方の選択肢を狭めていたラインが後退し、収入を増やしても手取りが目減りしにくい設計へ近づいた。賃上げの動きと相まって、時間単価を上げた分が家計に残りやすくなることが期待される。
もっとも、税と社会保険は役割が異なる。106万円や130万円といった社会保険の基準は残り、就業調整の行動は一挙に解消しない。だからこそ、今回の経済対策では、税制の変更で生じる可処分所得の上振れを、地域の需要喚起策や光熱費の補助で受け止め、年末から年度末までの消費の谷を浅くすることが重要になる。税と支援を重ねる設計が、数字の効果を実感へつなぐ。
対策規模には、こうした既に決まった制度改正の効果も織り込まれる見通しだ。新たな減税の扱いは国会審議を要し、関連分野の財源手当ても伴う。短期の負担軽減を積み上げるだけでなく、税体系の簡素化と透明性をどう確保するか。度重なる時限措置に頼りすぎれば、家計にも企業にも先の見通しを曇らせる。制度の持続性を意識した線引きが問われる場面である。
政治日程とメッセージ
政府は2025年11月21日の閣議決定を視野に、与野党との調整を続ける。補正予算案の提出から成立までを年内に運ぶには、編成と審議の双方で段取りが要る。片山財務相の「17兆円を上回る」発言は、当初見込みよりも厚みを持たせる意思の表明だ。規模感で示しつつ、使い道の精度で評価される。市場や自治体、家計が注視するのは数字そのものより、配分の輪郭である。
高市早苗首相が打ち出す「責任ある積極財政」は、危機の傷を癒やしながら成長の芽を育てるという二正面作戦だ。財政規律の糸を切らずに需要と投資を支える術を探る試みは続く。年の瀬へ向けて、補正の骨格は輪郭を固めつつある。決定の瞬間まで、細部の調整は息を潜めて進む。
