学問の自由に試練　英シェフィールド・ハラム大、中国圧力で新疆研究を一時停止

2025.11.04

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英国のシェフィールド・ハラム大学が、中国当局の圧力を受けて新疆の強制労働に関する研究を一時中止していた。研究を率いたローラ・マーフィー教授が2025年11月3日に明らかにし、法的措置ののち大学は謝罪と研究継続の支援を約束した。学問の自由と対外関係の狭間が露わになった出来事だ。

静かに迫った圧力、その痕跡

乾いた秋風がキャンパスの落ち葉を揺らした頃、現場で何が起きていたのかが少しずつ浮かび上がった。2024年春以降、中国の治安当局が同大学の北京拠点の職員に接触し、尋問や威圧的な言動があったと教授側は把握したという。大学側の文書開示で、研究停止やサイトからの関連資料の削除に結び付く「直接的な脅迫」が示されたとされ、教授は人権系の弁護士を立てて異議を申し立てた経緯がある。

教授らの報告は、新疆ウイグル自治区での強制労働とグローバルなサプライチェーンの結節点を、綿花や太陽光パネル、鉱物といった産業横断で追ってきた。こうした成果の公開に前後して、同大学のウェブサイトやメールアドレスへの中国本土からのアクセスが遮断されたとする記述も確認された。中国政府は一貫して強制労働の疑惑を否定しており、研究自体の正当性をめぐる対立が続く。

大学の判断と反発、そして翻意

2025年初め、教授が休職から戻ると、大学側は強制労働や中国に関する研究は許可できないとの方針を伝え、学外での活動にも厳格な制限を示したとされる。大学は当初、決定は中国での商業的利益によらず、必要な専門職賠償責任保険を確保できなかったことなど複合的事情を踏まえたものだと説明した。教授は高等教育における言論の自由の侵害を主張し、法的手続きに踏み切った。

大学広報は中国が同校にとって重要な留学生市場ではないと述べ、2024年度の留学生4204人のうち中国出身は73人にとどまると示した。ただ、内部メールには「中国でのビジネス維持と研究公開は両立しがたい」という認識がにじむ。最終的に大学は方針を覆し、教授に謝罪して研究の自由を守ると約束した。揺れた判断の背景に、財務や安全上のリスク管理と国際政治の影が交錯していたと映る。

波紋は高等教育界へ

事件は英国政府にも波及した。首相官邸の報道担当者は、外国政府による脅しや嫌がらせは受け入れられないと強調し、当局は必要な措置を講じる姿勢を示した。政府は23年の高等教育自由言論法の施行で、大学に学問の自由を推進する新たな義務を課しており、越境する圧力にどう抗うかが問われている。制度の整備が進む一方、現場の判断は依然として難所が多いとみられる。

静かな研究室に戻っても、画面の向こう側の緊張は消えない。公開すべき知と、守るべき人の安全。その線引きは誰がどこで決めるのか。教授は「厳密な研究を続けることが不可欠だ」と訴えた。国境を越えるサプライチェーンと同様に、学問の自由をめぐる課題も、地理や制度を越えて絡み合っているかもしれない。