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研究者がペトリ皿で育てたシイタケの菌糸に電極を当て、乾燥保存後に霧吹きで湿らせて応答を測ると、電気の流れを“覚える”素子として働いた。次世代計算の要とされるメモリスタ(記憶抵抗素子)を、希少資源や巨大工場に頼らず作れる可能性が示された。省エネと環境負荷の低減を同時にねらう一歩である。
オハイオ州立大が実証、菌糸メモリスタが示した省エネの芽
オハイオ州立大学のチームは、培養したシイタケ菌糸を乾燥させディスク状に保存し、使用時に再水和して電極と接続した。電圧や周波数、接点の位置を変えて計測したところ、電気抵抗が履歴に依存して変わる特性が再現され、メモリスタとして機能することが確認できた。成果は2025年11月13日に公表された。
実験では最大5.85kHzで約90%の精度で状態を切り替えられ、理想的なメモリスタで見られるヒステリシス挙動も示した。高い周波数では性能が落ちたが、複数のサンプルを組み合わせると安定性が戻る傾向が確認された。神経回路がつながるほど頑健になる現象に重なる観察である。
研究を率いたジョン・ラロッコ氏は、実際の神経活動を模した回路が実装できれば、待機時の電力を抑えられると述べる。ニューロモルフィック(脳の仕組みを模す)計算では、記憶と演算を一体化するメモリスタの低消費電力性が重要で、簡易な手法で再現できた意義は小さくない。
資源制約を越える設計へ、広がる用途と残る課題
従来のメモリスタは遷移金属酸化物などに依存し、製造と廃棄の環境負荷が課題だった。菌糸は有機バイオマス由来で生分解性をもち、培養と乾燥保存を繰り返しながら使える。省エネルギーで柔軟、放射線に耐える可能性も指摘され、エッジ計算や宇宙探査、組み込み機器など用途の射程は広い。
一方で、一般的なチップと競うには素子の小型化や特性のばらつき低減、製造の再現性と寿命評価が欠かせない。研究チームは、接点設計や素子配置の工夫でネットワークとしての安定化を図りつつ、量産や長期保存の手順を磨く考えだ。生物素材ならではの自己修復的なふるまいも、検証が進むだろう。
身近なキノコが、シリコンの隙間を埋める補助線になる。大量の電力と資源を要する計算を、土に還る素材で受け止める試みは始まったばかりだが、研究と試作の往復が進めば、静かに現実へ近づいていく。
