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州の福祉担当者が端末を前に支給データの読み込みを始めたころ、連邦政府は裁判所に追加の判断を求めて動いた。政府閉鎖が長引く中、補足栄養支援プログラム（SNAP）の11月分をどう支払うか。連邦地裁が全額の即時支給を命じた直後の2025年11月7日夜、政府は上級審に執行停止を申請し、給付の行方は再び揺れた。最大で40億ドルの資金移し替えが争点となり、約4200万人の暮らしに直接かかわる判断が続く。
揺れる給付、裁判所が示した一線
2025年11月6日、ロードアイランド州の連邦地裁でジョン・マコネル判事が政府に対し、SNAPの11月分を全額、7日までに各州へ送金するよう命じた。政府閉鎖で通常の財源が止まる中でも、農務省には別枠の資金を組み合わせる裁量があると見た判断だ。対象は全国の低所得者ら約4200万人で、判事は「時間との勝負」を強調した。行政側は直ちに不服を申し立て、結論は上級審に持ち込まれた。
政権は当初、既定の枠からの部分給付で対応するとし、支給率は50%から65%へと引き上げる姿勢も示した。ただ、各州のシステム改修や受給者ごとの再計算には時間を要し、着金まで数週間から数カ月の遅れが生じる恐れがあると説明した。マコネル判事は「部分給付では現実に間に合わない」として、全額支給の即時実行を求めた。
7日には第1巡回区控訴裁が緊急の審理日程を組み、政府は同日内の判断を要請した。さらに夜には最高裁に対しても緊急の行政上の一時停止を申し立て、即時の差し止めを求めたと報じられた。現時点で確認されている範囲では、長期の執行停止の可否は控訴審での検討を待つ構図で、給付の実施は綱渡りの状態が続く。
40億ドルの穴と「学校給食」の論点
最大の焦点は資金の出どころだ。下級審は、SNAP向けの予備資金に加えて、関税収入に由来する農務省の「セクション32」資金から最大40億ドルを振り替える組み合わせを想定した。これに対し政府は、児童栄養プログラムなど学校給食の支払いに穴があくとして慎重姿勢を崩さない。「ピーターを飢えさせてポールに払う」ことになるとの主張は、分配の優先順位そのものを問う。
原告側は、児童栄養向けの手持ち資金は潤沢で、月間の必要額を踏まえても当面は両立可能だと反論する。裁判資料では、当該勘定に相当額の残高があり、WICなどの運営費は月3億ではなく30億ドル規模にとどまるとの見立ても示された。必要なのは恣意ではなく説明責任だとし、行政手続法に照らした合理的な判断を迫った。
マコネル判事は、予備資金のみで部分給付にとどめる政府案は、実務の遅延を理由にして結果的に支給を遠ざけるものだと批判した。飢えのリスクが切迫する以上、行政が持つ合法的手段を尽くすべきだという立場である。一方で政府は、裁判所が歳出に踏み込めば権力分立の均衡を損ねると警戒を強め、司法の関与が政治的膠着を長引かせかねないと指摘する。
州と現場の負担、時間との競争
各州の社会保障システムは、給付率の変更や対象者の再計算に弱い。判決通りの全額支給でも、カード残高の反映や休日を挟む処理の停滞で、家庭に届くまでに数日のずれが生じる。部分給付に切り替える場合は計算手順が一段と複雑化し、現場の負荷は増す。フードバンクは利用者の急増に備え、寄付の呼びかけや配布回数の上積みを準備している。
連邦予算が動かない間も、日々の買い物は待ってくれない。小売店のレジには相談が増え、州は「翌週の入金」を見込んだ暫定説明を繰り返す。裁判所は人々の台所に最短距離で届く解を促し、政府は制度の持続性と法の枠組みを守ろうと踏ん張る。切迫と慎重がせめぎ合う足元で、支給履歴の画面だけが静かに更新を待っている。
