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南アフリカ政府は2025年11月6日、ウクライナ東部ドンバスで身動きが取れなくなった自国民17人から救助要請を受けたと明らかにした。20〜39歳の男性で、高額報酬を掲げる募集に応じた可能性があるとして、ラマポーザ大統領が勧誘の経緯を調査するよう命じた。政府は外交ルートで帰国支援を進めるとしている。
届いた17本の「助けて」
大統領府の窓口に救助要請が相次いだのは同日朝だった。電話やメッセージで届いたのは「帰りたい」という短い言葉と所在情報だ。現地での移動手段や連絡網が断たれ、複数が小さなグループに分かれて潜伏していると伝えられた。報道官は「命の安全確保が最優先だ」として、まず位置の特定と安否確認を急いだ。
要請したのは20〜39歳の男性17人で、16人がクワズール・ナタール州、1人が東ケープ州の出身とされる。彼らがどちらの側で戦闘に関与したのかは不明で、声明も陣営の特定を避けた。統率系統や契約形態が不透明なまま現地に入った例が混ざる可能性があり、政府は各人の経路や仲介者の有無を丁寧に洗い出している。
要請の多くはドンバスの前線近傍から発せられた。砲撃で道路が寸断され、検問や停電が日常化する地域では、避難経路の調整だけでも時間を要する。連絡が途絶える時間帯が長く、再接続のたびに位置が変わる者もいるという。情報の断片を地図に重ねながら、当局は危険度の高いルートを避けるための代替案を積み上げている。
違法と救出、そのはざまで
南アフリカでは、政府の許可なく雇い兵として活動することや、他国の政府のために戦闘に参加することは法律で禁じられている。国家はこの原則を繰り返し確認してきたが、同時に自国民の生命保護はゆるがせにできない。違法性の有無を問う手続きと、緊急の保護措置の両輪をどう回すかが、今回も問われている。
ラマポーザ大統領は、若者が「雇い兵とみられる活動」に勧誘された経緯の調査を指示した。報道官は、外交ルートを通じた帰国支援を進めていると説明し、影響を受けやすい層を狙う勧誘や搾取を強く非難した。勧誘の段階で虚偽の説明や不当な拘束があったかは、通信記録や送金履歴、仲介業者の所在などから裏づけを取る作業が続く。
救出は法執行だけでは完結しない。戦闘が続く地域では、安全走廊の設定や一時退避地点の確保に現地当局や国際機関の協力が要る。身分証の喪失や負傷の治療、出国手続きの再発行など、細部の手当ても時間を要する。帰還後には聞き取りや医療支援に加え、就労・教育の再開を助ける制度設計が欠かせない。
若者を狙う誘いの影
今回の一件で浮かび上がるのは、高収入をうたう誘いが若者の不安や焦燥につけ込む現実である。求人を装う勧誘は、渡航費用の立替や契約金の名目で債務を負わせ、現地での自由を縛る手口を用いることがある。武器製造や戦闘支援など、想定と異なる任務を告げられる事例も報じられてきた。帰国を望んでも、違約金や脅しが障壁になる。
オンライン空間では、華やかな生活や成功談を装う投稿が拡散し、実態の見えにくさが意思決定を鈍らせる。国内の雇用環境の厳しさが背中を押す構図もある。こうした背景が折り重なり、誰もが狙われ得る。学校や地域でのリテラシー教育、求人の真正性を検証する窓口、家族や友人が相談を受け止める仕組みまで、地道な予防線が必要だ。
電話口で「家に帰りたい」と訴えた17人の行方を追いながら、当局は法と人道の接点を探っている。引き返す道のりは長いかもしれないが、帰還後に生活を立て直す支えがあれば、勧誘の網は細るはずだ。静かな日常へ歩み直すための第一歩が、いま丁寧に準備されている。
