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変電所の地面がかすかに震え、太いケーブルが夜気のなかで唸る。データセンターの接続をめぐり、米政権が規制当局に加速を迫っている。現時点で確認されている範囲では、エネルギー省のライト長官が連邦エネルギー規制委員会（FERC）に対し、データセンターの送電網接続を素早く審査できる枠組みを求めた書簡草案が存在すると一部報道が伝えた。審査の迅速化は、トランプ大統領が掲げるAI基盤拡大の要でもあり、電力網の詰まりを解く試みと映る。
接続を「60日」に、何が動いたのか
一部報道によれば、ライト氏の草案はデータセンター接続に限り審査期間の上限を設け、最大60日での可否判断を認めるようFERCに要請する内容とされる。FERCは独立機関であり、政権の要請が直ちに制度改定につながるわけではないが、AI向けの大規模負荷を早期に取り込む狙いが浮かぶ。現在は系統側の検討や増強設計が重なり、接続可否まで数年を要する例も珍しくない。
同年7月23日には、ホワイトハウスがデータセンターや関連インフラの連邦手続を横断的に迅速化する大統領令を発出している。対象を100メガワット超の新規負荷などに定義し、環境審査や用地選定、連邦資金の扱いまでを束ねて前倒しする方針を示した。接続審査の高速化は、この広範な規制緩和の電力部門版と位置づけられる可能性がある。
もっとも、FERCが細則を持つ系統接続は、統一ルールを各地域の送電事業者が運用する仕立てになっている。仮に「60日」の新ルールを認めるとしても、既存の手順・標準契約のどこを短縮し、誰が追加コストや系統増強のリスクを負うのか、詰めの作業は避けられない。要請と実装の距離感はなお残るとみられる。
AIブームと電力網の詰まり
FERCは2023年に発した包括的な接続ルール（Order No. 2023）で、バックログ解消と手続の可視化を進めてきた。公表資料によれば、2022年末時点で1万件超・2,000ギガワット超の案件が全国のキューに滞留し、同年に完了した系統影響評価の68％が期限に遅れた。AI時代の電源・負荷の同時増大が、既に逼迫する工程に拍車をかけている構図である。
データセンターは立地時に100メガワット単位の新規負荷を一気に生む。ホワイトハウスの大統領令は、こうした巨大負荷の環境審査や許認可の経路を短くし、連邦機関の権限を束ねて進路を開く狙いを明示した。系統側の接続工程が同様に短縮されれば、GPUや建屋の調達と並走しやすくなり、建設と通電の時間差を縮める効果が期待される。
ただし、接続の前倒しは送電線や変電設備の増強を前提とする。Order 2023が導入した「一括審査」や一定の保証金強化は、遅延と空押さえを抑える狙いがあった。新たにデータセンター向けの特別枠を作るなら、既存案件との公平性や系統増強費の分担原則をどう整合させるかが焦点となる。制度の歪みを避ける設計が問われる局面である。
利害の交差点に立つ州・企業・規制当局
テクノロジー企業や電力会社の経営陣は、接続審査の高速化を歓迎する一方、州政府の視線は電気料金に向かう。データセンター、新工場、EVの普及が重なれば系統投資の総額は膨らむ。費用を一般需要家にどの程度転嫁するかは政治課題であり、州規制委員会とFERCの権限の境界で綱引きが強まる可能性がある。
FERCは独立機関として、命令や規則改正には公開手続と合議を経る。仮にライト氏の要請が正式提案に発展しても、各地域の送電事業者の運用や州の配電規制との調整が必要になる。迅速化はAI基盤整備の追い風だが、料金影響や系統信頼度に配慮した緩急の付け方が鍵となる。拙速は訴訟リスクを招くおそれもある。
一方で、政権は7月の大統領令でNEPA手続の整理や連邦土地の活用まで踏み込んだ。接続だけでなく、用地、変電所、送電線、発電設備を含む一連のインフラが同時並行で進む絵を描く。規制の歯車が噛み合うかどうかは今後数カ月の実装次第だが、AIの熱気が系統計画を押し広げる光景が広がっている。
