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研究者が壇上でスライドを切り替えるたび、青い点が細く伸びていった。スタンレー電気は2025年11月12日、京都大学・日亜化学工業と進める次世代レーザーPCSELの研究成果を発表した。高出力と高指向性を両立するこの光は、製造現場や自動運転、水中センシングまで視界を開く技術として、社会実装へ一歩近づいたと示した。
狙った先へ届く1mm、ひと筋の光
発光サイズが直径1mmのPCSEL素子で、高指向性ビームの生成に成功した。独自のフォトニック結晶構造と電極設計を最適化し、青色半導体レーザーで課題だったビームの拡がりを抑えた。広がり角は従来の0.1〜0.2度から0.05度以下へ。大型装置に迫るエネルギー密度を、小さなチップで引き出せる。
PCSEL(フォトニック結晶面発光レーザー)は、面内に周期構造を刻んだ結晶で光の進み方を制御する半導体レーザーだ。素子面から垂直に発光しやすく、アレイ化や高出力化と相性がよい。1999年に京都大学の野田研究室で発明され、近年は波長や出力の設計自由度の高さが見直されている。
今回の指向性は、青色光をよく吸収する銅やアルミの精密加工に効く。エネルギーを狙ったスポットに集められるため、熱影響を抑えつつ切断や溶接の品質を上げやすい。電動化で配線やモーターの銅使用が増える製造現場では、工程短縮や装置の小型化につながる余地がある。
水や霧の向こうで“見る”
高い直進性を生かし、水中センシングでの有効性も示された。理論上は水中10m先にある1cmレベルの物体を検知できる計算だ。乱反射と吸収の影響が大きい環境でも、細いビームを的確に届けることで信号の回収効率を確保する狙いである。
この特性は、船舶事故を防ぐ海中障害物の検知や、橋脚といった水中インフラの点検に直結する。潜水作業や大型ソナーに頼ってきた現場で、軽量なセンサーの選択肢が増えれば、点検の頻度と解像度の両立が進む可能性がある。資源探査の初期スクリーニングにも相性がよい。
車載ではLiDAR(レーザーで距離や形状を測る計測技術)への展開が見込まれる。雨や濃霧など視界が悪い状況でも、拡がりの小さい光は戻り信号のS/Nを稼ぎやすい。長距離の検知や小物体の識別に余裕が生まれれば、自動運転の冗長系としての信頼度を底上げできる。
研究の歩みと現場への橋渡し
スタンレー電気、京都大学 野田研究室、日亜化学工業は、2024年から三者で早期社会実装に向けた研究を進めてきた。その取り組みと成果は、2025年11月10日から12日に英国スコットランドで開かれたInternational Workshop on PCSELs 2025で招待講演として披露された。学術と産業が交わる場で、量産設計の勘所が共有された。
創業は1920年。自動車用特殊電球から始まったスタンレー電気は、いま自動車照明や各種LED、LCDなどの電子応用製品で交通の安全を支えている。長年の光学設計と量産のノウハウが、フォトニック結晶の微細加工や電極設計の最適化にも生きる。基礎発明の器を、量産品の器へと整える役回りだ。
次は、素子サイズの拡張やアレイ化、熱設計と駆動回路の統合である。指向性という“一本の線”を保ちながら、量と質、コストの均衡点を探る段階に入った。研究室の一枚のウェハーから、工場のラインへ。光の扱い方が変わるとき、つくり方や見え方も静かに更新されていく。
細い光が描く道筋は、現場の手触りを変える準備を整えつつある。