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西海岸の上空に白い軌跡が伸びたのち、フロリダの海風が静かな朝にもう一筋の火柱が空へ向かった。2025年10月20日、SpaceXの衛星インターネット「Starlink」が通算1万基に到達した。フロリダとカリフォルニアで計56基を同日に打ち上げ、年内のFalcon 9は132回目に達して前年記録に肩を並べた。巨大コンステレーションは次の局面へ踏み出したと映る。
「タンタンから1万基へ」節目の一日
10月20日、SpaceXはフロリダのスペースコーストとカリフォルニアのヴァンデンバーグから、それぞれ28基ずつのStarlink衛星を連続投入した。後続の西海岸便に、節目となる「1万基目」が含まれたと現地の配信で伝えられている。数で語られる計画の歩みが、具体的な瞬間として切り取られた格好だ。
配信では「タンタンから1万基まで！頑張れStarlink、頑張れFalcon、頑張れSpaceX！」との呼びかけが響いた。タンタンは2018年に軌道へ上がったプロトタイプ衛星の名である。最初の2機から始まった計画が、わずか数年で1万に届いたという物語性が、短いフレーズに凝縮されているといえる。
この日の2発で、Falcon 9の年間打ち上げ回数は132回に達した。前年の記録に並び、残り日数を考えれば更新は時間の問題とみられる。高速の反復運用を常態化させた打ち上げインフラが、衛星側の量的拡大を支えている構図が浮かぶ。
軌道に残る数、入れ替わる日常
もっとも、1万基がそのまま空で稼働しているわけではない。衛星追跡で知られる天体物理学者ジョナサン・マクダウェル氏の集計では、10月中旬時点で運用中は約8600基とされる。新旧の入れ替えが常に進み、数字は日々上下する現実があるとみられる。
Starlink衛星の設計寿命はおおむね数年規模とされ、性能劣化や設計更新に合わせて計画的に降軌させる運用が続く。運用を終えた機体は高度を下げ、最終的に大気圏で焼失する設計思想だ。軌道上の持続可能性を意識した「流れ」を内包する点が、衛星の総数と同じくらい重要である。
地上の利用者にとって、この入れ替えは速度と遅延の安定に直結する。混雑は通信品質をむしばむが、軌道上の局数を厚くし、衛星間リンクの網を細かくすることで余裕度が増す。星の数が増えるほど、地上から見える回線の「余白」も広がっていく構図だ。
広がる計画、問われる空のルール
現時点で確認されている範囲では、SpaceXはおおむね1万2000基の配備許可を得ており、長期的には3万基超の構想を描く。1万基到達は「許認可の外縁」に近づいた合図でもあり、運用密度の最適化や地域需要への追随など、質的な拡張が次の焦点に移るとみられる。
一方で、天文観測や衝突回避といった課題も膨らむ。衛星が増えるほど調整は複雑になり、国際的な協調や透明性の高いデータ共有が欠かせない。SpaceXは降軌設計や可視光低減の工夫を重ねるが、世界全体としてのルールづくりが問われている構図は変わらない。
10月22日には年内133回目のFalcon 9が予定され、連続記録の更新が視野に入る。打ち上げの鼓動が日常のリズムとなった今、空のインフラは静かに厚みを増している。次の1万基へ向け、どのような速度で、どんな秩序を伴って進むのかが注目点である。
