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山の斜面に薄日が差す朝、圏外と表示されたスマホの画面が、まもなく静かに塗り替わる見通しが立ってきた。NTTドコモとソフトバンクが米スペースXの「Starlink」を活用し、衛星とスマートフォンの直接通信を2026年春にも始める方向で動いていることが25日に明らかになった。山間部や離島、海上など電波の空白が残る日本の地図に、新しい線が引かれようとしている。
空を経由する回線が、日常になる
携帯のアンテナが届かない山の稜線や、港から離れた海の上でも、空が開けていればつながる。各社の地上網に代わり、頭上を通過する衛星が“移動基地局”の役割を担う構図である。現時点で確認されている範囲では、両社はStarlinkの衛星群を使い、地上基地局を介さずスマホから直接衛星へ電波を飛ばす方式を想定しているとみられる。専用端末は不要というのが要点だ。
この接続は、まずは文字メッセージや緊急情報の受信から段階的に広がると映る。すでに国内ではKDDIが2025年春からStarlinkの直接通信を商用化し、他社ユーザーにも門戸を広げた経緯がある。空の見える場所で、これまで“圏外”だった一帯にも連絡の糸が伸びる体験が現実味を帯びている。
山道での遭難、島しょ部での医療搬送、漁場の安全確保。これまで「たまたま電波が入らない」ことで危うかった場面に、最低限の通信が通るだけでも現場の判断は変わるはずだ。災害時のバックアップとしても、基地局と電源の両面が被災する事態に備えるもう一枚の保険になるとみられる。
追うドコモとソフトバンク、先行するKDDI
ドコモは2025年5月9日の決算会見で、前田義晃社長が衛星とスマホの直接通信を「2026年夏に開始できる」と言及していた。ソフトバンクも同年5月8日に宮川潤一社長が「2026年中の開始」を掲げ、両社とも当時は具体的な衛星事業者を明かしていなかった。それから数か月、25日の報道でStarlink活用の見通しが浮かんだ格好だが、正式発表はこれからであり、最終仕様や開始時期は変動の余地があると受け止めたい。
一方で国内の先頭を走るのはKDDIである。2025年4月に国内でいち早く商用提供を始め、同年5月には他社回線のユーザーにも月額1650円で開放した（自社の一部料金プランでは月額550円で追加可能とした）。既存スマホがそのまま使えること、山間部や海上でもテキストが届くことを実地で示した効果は大きい。価格や提供条件は各社で異なるだろうが、利用者目線の競争が本格化する局面が近いと映る。
さらに視野を広げれば、楽天モバイルも衛星通信事業者と組み、2026年第4四半期の提供を見込む計画を公表している。4社がそろって衛星直収を進める構図は、山岳・離島の生活だけでなく、観光、物流、エネルギーなど幅広い産業の現場に波及するだろう。地上網の増強と衛星の補完という二層構造が、日本のモバイルの“当たり前”になっていく。
技術と制度の壁をどう越えるか
サービスの鍵は、大きく三つある。第一に周波数の調整である。地上の携帯電話向けに割り当てられた帯域を衛星が補完的に使うため、国内外の干渉管理や運用ルールの整備が欠かせない。米国では衛星からの補完的カバレッジ（SCS）が制度化されつつあり、日本でも同趣旨の整理が進む。両社の本格開始時期が「春」の見通しと伝わるのも、技術検証と制度設計の歩調に左右されるからだとみられる。
第二に衛星側の“数”だ。頭上を通過する衛星が少なければ、つながる時間も短い。Starlinkは低軌道に多数の衛星を張り巡らす戦略を進めており、直接通信向けの衛星も増勢にある。通信の切れ目をどう埋めるかは、地上の周波数運用と並ぶ要点である。まずはテキスト・緊急通報から始め、通話やデータへ段階を踏む展開が現実的だろう。
第三にユーザー体験である。屋外で空が開けていること、バッテリー消費、対応機種の見え方など、日常の使い勝手が定着の成否を左右する。KDDIの先行事例は、価格や通知の分かりやすさを含め、現場での最適解を探る実験場になっている。ドコモとソフトバンクも運用の細部を詰める段階にあり、災害時の自動切り替えや自治体との連携など、日本ならではの使い方が磨かれていくはずだ。
