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判事が次々に身を乗り出し、政府側の弁論に細かな問いを重ねた。2025年11月6日、連邦最高裁は1977年国際緊急経済権限法（IEEPA）を根拠とする包括関税の合憲性をめぐり口頭弁論を開き、政権の解釈に懐疑的な視線が向いた。たとえ結論がいずれに傾いても、企業や貿易相手にはしばらく不透明さが残る見通しだ。
判事の問いが映した緊張
弁論は約2時間半に及び、保守・リベラル双方の判事から厳しい質問が相次いだ。税の権限は本来議会にあるという憲法上の原則、重大な経済影響を伴う場合に明確な授権を求める「メジャー・クエスチョンズ・ドクトリン」、そして同法がそもそも関税という手段を許容しているかという点が、交互に突きつけられた。政府側は関税は収入目的ではなく規制手段だと主張したが、関税が結果として国内の輸入者の負担を生む現実との整合性が問われた。
争点は大きく2つに収れんしている。第1に、同法が宣言された非常事態に関連して大統領に幅広い輸入規制権限を与えると読めるかどうか。第2に、仮に権限が認められるとしても、その委任が議会の課税権を侵す過度な白紙委任に当たらないかという点だ。挑戦側は、条文に明記なき関税権限の読み込みは行政府の膨張につながると指摘し、複数州や中小企業の利益団体が意見書で支援した。
最高裁がこの論点に深く踏み込んだことで、下級審判断の是非だけでなく、緊急権限の扱い全体に一定の線引きが示される可能性が高まった。結論の時期は判然としないが、期末近くまで判断が持ち越される展開も見込まれている。静かな廊下に人波が途切れるまで、緊張の余韻が残った。
企業と各国に残る長い不確実性
輸入者は支払い済み関税の扱いを見通せないまま在庫と資金繰りを調整している。価格転嫁で販売計画を組み直す企業、調達先の再配置を急ぐ企業、返還の可否に備えて会計処理を保守的に置く企業など、現場の対応はばらつく。仮に違法と判断されれば償還の議論が現実味を帯びるが、返金スキームの設計や訴訟管理には時間がかかるため、短期的には資金の滞留が続きやすい。
各国・地域との交渉の足取りも重くなる。包括関税が揺らいでも、特定分野に絞った措置や相殺関税など他の枠組みに移行しうるため、サプライヤーは条件見直しを迫られやすい。日本を含む主要な貿易相手は、交渉の節目ごとに「当面の前提」を更新しながら応じる必要がある。合意の土台が確定しない期間が延びるほど、現場の投資判断は保守化し、需要の山谷に合わせた柔軟性が削がれていく。
為替や金利と異なり、関税は契約・物流・税務の多層に影響が波及する。価格表ひとつ更新するにも、品目番号の再確認や原産地証明の差し替えが伴い、見本市の出展計画や新製品の発売タイミングまで連鎖する。今回の審理は法廷の内側の出来事に見えても、実務の外側では日々の細かな判断を積み重ねる人たちの時間を静かに奪っている。
IEEPAの線引きと代替手段
同法は非常時に対外取引を規制するための包括法として成立したが、課税権そのものを移す趣旨かは条文上明確でない。判事の一部は、広汎な経済効果を伴う場合は国会の明確な言葉を求めるべきだと踏み込み、他の一部は外交・安全保障の領域での裁量を重視した。いずれに傾いても、緊急権限と租税・通商の線引きに新たな目印が置かれるだろう。
仮に包括関税の射程が制限されても、行政が使い得る道具立てはひとつではない。既存の通商法に基づく救済や特定品目への調整措置、数量制限や輸出規制など、目的に応じた選択肢は残る。特に通商法の規定には、上限率や適用期間を明確に定めた条項もあり、短期の圧力を意図した運用が想定される。一方で、射程の狭い手段は即効性と引き換えに制度設計の手間が増し、現場に与える影響はより選択的で複雑になりやすい。
供給網の主導権をめぐる争いは関税の領域を越えて続いている。半導体や重要鉱物など戦略物資をめぐる管理は強まり、緊張緩和の局面でも、ひとつの措置が別の分野の交渉を冷やすことがある。判決が出ても、関税という太い線は細い線に描き替えられるだけかもしれない。静かな工場のラインで、次の指示を待つ手だけが止まらない。
