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台北の街頭に、黒い車列が滑り込む。群衆の前に現れたのは、かつて台湾最大の暴力団「竹聯幇」と深く関わった男が率いる政党のトップだった。米紙が2025年9月29日に公表した調査報道は、この中華統一促進党が中国共産党から資金や組織的支援を受け、世論工作や攪乱に動いてきた実態を描き出した。台湾当局は今年1月2日、同党の違憲解散を憲法法庭に声請する方針を決定しており、民主主義の守りをめぐる攻防が現実味を帯びる局面に入ったと映る。
露わになった「統戦」の回路
現場の空気は熱を帯びていた。演説台に立つ張安楽は、統一という言葉を「平和」の衣で包み、喝采を浴びた。だが、現時点で確認されている範囲では、同党の内側で動いてきたのは理想論だけではない。取材に応じた台湾の治安・情報関係者や関係記録の分析から、党の中枢に竹聯幇の人脈が重なり、中国共産党の統一戦線工作部との接触が繰り返されていた像が浮かぶ。
同紙は、党の広報担当だった張孟崇と妻が2011年から2023年にかけて少なくとも新台湾ドル約7400万元相当の支援を受け、ラジオや動画配信、SNSで親中候補の支持や反対派の攻撃に動いたと報じた。軍の士気を挫く降伏誘導の言説や、香港民主派への非難も含まれていたという。張は2025年9月に腎疾患で死亡したとされ、妻に対する審理は続いているとみられる。
攪乱は言葉にとどまらない。過去5年で党や竹聯幇関係者から約200丁の銃器が押収されたとの内部資料に基づく記述もある。平時は情報収集や宣伝、緊張時には妨害の「内なる協力者」となりうるとの台湾側の警戒は強く、同党が中国の意図に沿う前衛として機能してきた可能性が色濃いと映る。
当局の対抗措置とズレた時系列
行政の歯車も動いた。2025年1月2日、内政部の政党審議会は、中華統一促進党が組織犯罪の常態化や反浸透法・国家安全法などへの抵触を通じて自由民主の憲政秩序を害しているとし、憲法法庭に違憲解散を声請する方針を正式決定した。公的機関が「統戦」と「黒幇」の結節点を政党活動の核心問題として明示した意味は重い。
一方で、捜査と司法の時系列には留意が要る。報道は昨年11月に張孟崇夫妻の起訴があったと伝えるが、解散の声請決定はその後の今年1月2日である。すなわち、刑事訴追と政党の憲法審査は別走路で進められてきたという整理になる。憲法法庭は政党違憲解散を所掌し、党の目的や行為が憲法秩序を侵すかを審理する仕組みだが、結論までの道のりは短くないとみられる。
党勢自体は国政の議席を持たない周辺勢力である。それでも党員数は3万人超とされ、地域の集会やオンライン空間での可視性は高い。同紙は、与党・民進党の頼清徳総統が同党を「中国のスパイ工作の導管」と批判した経緯にも触れる。強い言葉が交錯する一方で、手続の正当性と証拠の厚みが問われ続ける構図が広がっている。
社会に残る亀裂と問われる備え
同党は事故や犯罪の映像を拡散し、「無秩序な台湾」という物語を日常に浸透させた。感情を揺らす映像と言葉は社会の温度を変える。台湾の専門家は、こうした認知戦が市民の判断を鈍らせ、選挙や政策論争の地盤を緩めると警鐘を鳴らす。情報と感情の連動を断ち切る術が問われる場面が続く。
他方で、同党の影響力を相対化する声もある。周縁的な勢力に過度の注目を集めること自体が分断を深め、対処の優先順位を誤らせるという見立てだ。だが、武器の押収や組織的な資金フローの痕跡が積み上がる中、放置のコストもまた現実だろう。社会の亀裂に入り込む経路が可視化された以上、執行と権利保障のバランスを詰める段階にある。
結末はまだ見えない。憲法法庭の判断、刑事手続の進行、そして次の選挙周期。これらが重なりながら、台湾の制度は外部介入と内なる暴力性にどう向き合うのか。小さな歪みを見逃さないこと、制度の透明性を高めること、平時のうちに社会の抵抗力を育てること。いま必要なのは、その三つの土台だと感じる。
