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高市早苗首相が12月1日、サウジアラビア主導の国際投資会議「未来投資イニシアチブ（FII）」東京会合で、日本の財政運営について語った。金利動向を注視しつつ「責任ある積極財政」で経済を強くする方針を示し、国債発行額は前年度より抑える姿勢も説明した。世界の投資家が集まる場で示されたこのメッセージは、住宅ローンや老後資金に不安を抱える日本の生活者にとって、これからの負担がどう変わるのかという問いを投げかけている。
家計と市場から見える「責任ある積極財政」の重み
高市首相は、金利の行方を常ににらみながら財政を運営すると強調した。ロイター通信やブルームバーグの報道では、今年度の当初予算と補正予算を合わせた国債発行額を、前年度より減らす方針にも言及したとされる。家計の側から見れば、金利が上がれば住宅ローンやカードローンの返済負担は増えやすくなる一方、預金金利が上がれば利息収入は増えるという複雑な影響がある。市場では、政府がどこまで借金を抑えられるかが国債利回りや円相場を左右し、その先にある企業の設備投資や賃上げの余力にもつながっていく。
首相はまた、物価上昇による「実質的な債務圧縮」を評価すべきではないとし、賃金と生産性の伸びによって名目成長率を高め、結果として税収が過去最高水準になっていると説明した。単にインフレに頼って借金を目減りさせるのではなく、働き手の所得増を通じて財政を持続可能にしたいというメッセージだ。もっとも、賃金の伸びを実感できていない層にとっては、物価と税負担だけが重くなっているようにも映る。生活実感とマクロ経済指標のギャップが埋まらない限り、「責任ある積極財政」がどこまで支持を得られるかは不透明だ。
今回の発言が行われたFIIは、「砂漠のダボス会議」とも呼ばれ、各国の首脳や投資家が集まる場だ。サウジアラビアが掲げる経済改革「ビジョン2030」の一環として開かれ、AIや脱炭素投資といったテーマで議論が交わされている。そこで日本の首相が財政運営の方針を語ることは、日本国債を保有する海外投資家や、日本に進出する多国籍企業に向けた説明責任という側面もある。家計にとっては遠い世界の会議に見えても、そこでの言葉は長期金利や為替を通じて、じわじわと生活に跳ね返ってくる。
海外との比較で見える、日本の「積極財政」の難しさ
FIIは、サウジアラビアが石油依存からの脱却を目指す「ビジョン2030」の看板イベントであり、非石油分野への投資を呼び込む装置として機能している。欧米の多くの国も、コロナ禍以降の景気対策で財政赤字を膨らませたが、高インフレと金利上昇を受けて、歳出削減や増税の議論を加速させている。こうした国々と比べ、日本は長期にわたる超低金利のもとで累積債務を積み上げてきたため、金利がわずかに上がるだけでも利払い費が膨らみやすい構造にある。積極財政を掲げながらも、国債発行を減らすと強調せざるを得ない背景には、この脆さがある。
一方で、日本政府は防衛力強化や少子化対策、GX（グリーントランスフォーメーション）投資など、中長期的な支出ニーズを抱えている。欧州では、財政ルールを見直しつつも、成長投資と債務削減をどう両立させるかが大きな論点だ。日本でも同じ構図だが、人口減少と潜在成長率の低さがより深刻である分、成長投資の「打ち手」が限られやすい。今回の首相発言は、名目成長と税収増を軸にした財政健全化を描こうとしているが、その前提となる生産性向上や新産業育成の道筋は、まだ十分には示されていない。
FIIの場には、AIや再生可能エネルギーに巨額資金を振り向ける企業や投資ファンドも集まる。日本にとっては、こうした民間マネーを呼び込み、自国の成長戦略とつなげられるかどうかが重要だ。財政だけで需要を支えるのではなく、規制改革や税制、官民連携を通じて投資先としての魅力を高められれば、国債依存度を下げる余地も広がる。逆に、構造改革が進まなければ、積極財政の名のもとに借金を重ねざるを得ず、「責任ある」と言い切ることが難しくなる。
高金利時代をにらんだ、日本の選択肢と負担の分け方
日銀の大規模緩和が徐々に縮小され、世界的にも「高金利が当たり前」の環境が続く可能性があるなかで、日本の財政運営はこれまで以上に金利に敏感にならざるを得ない。首相が「金利の動向に留意する」と繰り返すのは、利払い費の増加だけでなく、急な金利上昇が企業倒産や住宅ローン破綻を招かないようにする狙いもあるだろう。だが、金利を意識して国債発行を抑えれば、社会保障や子育て支援など身近な分野の予算配分にも、より厳しい選択が迫られる。
今後の日本に残された選択肢は、単純な「拡張か引き締めか」ではない。将来世代の負担を抑えるために、どの支出を優先し、どこまで税や社会保険料で現役世代が負担するのか。あるいは、成長投資と称して当面は国債で賄い、その成果が出るまで利払いリスクを引き受けるのか。高市首相の発言は、その分岐点に差し掛かっているという認識をにじませる。FIIのような国際会議で方向性を示すことは重要だが、国内では具体的な制度設計と痛みの分かち合いをどう描くかが、次の大きな課題になる。
財政の持続可能性と成長投資、そして生活者の安心をどう両立させるのかという問いに、今の日本はようやく真正面から向き合い始めた段階にあるように見える。
