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マイクが一斉に向けられる中、高市早苗首相はヨハネスブルクの会場ロビーに姿を見せた。2025年11月23日、アフリカで初開催となったG20サミットの全日程を終えた直後だ。中国の李強首相と言葉を交わしたかを問われると、高市氏は「接触の機会はなかった」と静かに答え、日中双方の懸案を減らし、理解と協力を増やしていくべきだと語った。
日中首脳、すれ違いのG20会場で
高市首相は21〜24日の日程で南アフリカを訪れ、主要20か国・地域の首脳会議であるG20サミットに出席した。日本初の女性首相として初めてG20に臨んだ高市氏は、英国やドイツ、インドなどとは個別会談をこなした一方で、中国との首脳会談は事前に調整されず、実現しなかった。アフリカ大陸で初めて開かれた今回のG20は、南アフリカが議長国を務め、開発や債務問題を議論の柱に据えていたが、日中のすれ違いがその周辺で静かな緊張を生んだ。
会見で高市氏は、急速に冷え込む日中関係について「双方が抱える懸案や課題を減らし、理解と協力を増やす必要がある」と強調した。就任時から掲げる中国との戦略的互恵関係、つまり共通の利益を広げつつ安定した関係を築く方針は変わらないとし、中国側との様々な対話にオープンだとも述べた。そのうえで、日本として安全保障や国際秩序をめぐり主張すべき点は、場面に応じてしっかり伝えていくと語り、融和一辺倒でも対立一色でもない構えをにじませた。
台湾発言への反発と、経済対話の陰影
今回の緊張の背景には、高市氏の国会答弁がある。台湾有事を念頭に置いた答弁に対し、中国側は強い反発を示してきた。21日には中国の傅聡国連大使がグテレス国連事務総長に書簡を送り、日本が台湾問題への「武力介入」をちらつかせていると批判した。さらに23日、中国外務省は王毅外相のコメントとして、日本の指導者が台湾への軍事介入を示唆する誤ったメッセージを公に発したことは「衝撃的だ」との声明を発表し、G20直前から火種はくすぶり続けていた。
一方で、高市氏はヨハネスブルク滞在中に国際機関の代表とも懇談した。国際通貨基金（IMF）の専務理事との会談では、高市政権がまとめた総合経済対策について、財政上のリスクにも配慮され安心しているとの評価が示されたという。「連帯、平等、持続可能性」を掲げた2025年G20では、債務や格差といった課題への対応も重視された。安全保障を巡る厳しい視線と並行して、日本の財政運営に対する国際社会の信頼をどう保つかという、もう一つの静かな問いも会場を流れていた。
会場の片付けが進むロビーを後にしながら、高市氏の言葉だけが、交わらなかった対話の余白としてヨハネスブルクの夜に残っていた。
