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厚生労働省が12月8日に公表した10月分の毎月勤労統計調査(速報)では、物価変動を差し引いた実質賃金が前年同月比0.7%減と示された。名目賃金は1人あたり30万141円で2.6%増を確保したものの、物価上昇のペースには届かず、実質ベースのマイナスは2025年1月分から10カ月連続となる。春闘では2年続けて高水準の賃上げが話題になったが、「手取りは増えたのに暮らし向きは変わらない」と感じる人が多いのはなぜなのか。
賃上げの実感が薄い家計 鍵を握る「実質」の目減り
毎月勤労統計によれば、10月の実質賃金は前年同月より0.7%低く、1月分から数えて10カ月連続でマイナスが続いている。名目の現金給与総額は2.6%増えているにもかかわらず、物価の伸びに追い付かないためだ。統計上は「賃上げ」が進んでいるのに、家計には「目減り」として現れる逆転現象が起きている。
実質賃金とは、額面の給与を消費者物価指数などで割り、物価変動の影響を除いて働き手の購買力を示そうとする指標である。スーパーでの食料品や日用品の値上げ、電気・ガス代の高止まりといった状況が続くと、同じ金額の給与でも買える量は減ってしまう。名目賃金だけを見ていると把握しづらいが、物価の影響まで含めて生活水準を測るのがこの数字だ。
10月の現金給与総額は1人あたり30万141円と、プラス2.6%の伸びを示した。ボーナスや残業代を除いた所定内給与も27万1663円で2.6%増えており、基本給が底上げされていることがうかがえる。それでも実質ではマイナスが続く現状は、「給与明細の額面が増えても、生活の余裕にはつながりにくい」という多くの家庭の実感と重なる構図といえる。
こうしたギャップは、賃上げのニュースを耳にしながらも「自分の暮らしはあまり変わらない」と感じる人の違和感の源泉になっている。統計上の名目賃金と、家計が肌で感じる実質の生活水準。その間に横たわる物価の壁をどう乗り越えるかが、今後の議論の前提となる。
2年連続の高水準賃上げ 基本給は上がったが
今回の統計で特徴的なのは、賃上げの中心がボーナスではなく基本給に近い所定内給与に表れている点だ。10月の所定内給与は前年同月比2.6%増で、現金給与総額と同じ伸び率となった。2025年春の労使交渉では、前年に続いて高い水準の賃上げが実現したとされ、その広がりが毎月の給与水準を押し上げたとみられる。
連合の集計によると、25年春闘の最終的な賃上げ率は、ベースアップと定期昇給を合わせて平均5.25%と、1991年以来34年ぶりの高水準だった。大企業だけでなく、組合員300人未満の中小でも4%台半ばの賃上げとなり、2年連続で「5%前後」という水準が続いたかたちである。
一方で、多くの中小企業では、人手不足で人材確保のために賃上げを迫られる「防衛的賃上げ」が中心で、売上や生産性の伸びが十分に伴っていないとの分析もある。政府の骨太の方針原案を報じた記事では、こうした賃上げが利益を圧迫し、価格転嫁に慎重にならざるを得ない中小企業の姿が紹介されている。
統計の数字を見ても、名目賃金の伸びは2〜3%程度にとどまる局面が続いているのに対し、エネルギーや食料品などの物価はそれ以上のペースで上昇してきた時期が長かった。企業と労組が積み上げた賃上げの成果が、物価の波に押し流されてしまう―。そんな構図の中で、働き手の購買力をどう守るかが次の焦点になっている。
「年1%」目標と中小の壁 実質賃金を押し上げる条件
政府は2025年の骨太の方針原案で、実質賃金を年1%程度押し上げることを中期的な目標に掲げた。今回の10月分統計では前年同月比0.7%減であり、目標と逆方向の動きが続いていることになる。2024年度の実質賃金も前年度比0.5%減と3年連続でマイナスとなっており、物価と賃金のバランスを転換するハードルの高さが浮かび上がる。
こうした中で、政府は中小企業の賃上げ環境を整えるため、最低賃金の引き上げ議論や「年収の壁」対策など複数の政策を動かしている。例えば、一定規模以上の企業で短時間労働者が社会保険に加入する条件となっている月額賃金要件について、2025年6月以降3年以内に撤廃する方針が示されている。賃金要件や企業規模要件の見直しは、働き方の選択や賃上げのあり方にも影響を与えうる制度変更だ。
一方で、厚労相の過去の会見でも繰り返し述べられてきたように、賃金は「経済成長の原動力」でありながら、中小企業のコスト負担にも直結する。価格転嫁が進まなければ、賃上げは利益圧迫となり、雇用や投資を抑える要因にもなりかねない。実質賃金を押し上げるには、賃上げそのものに加えて、生産性向上や取引慣行の是正など、中小企業が適切に価格を付けられる環境づくりが不可欠だ。
実質賃金マイナスの長期化は、家計の「生活の実感」と統計の数字がずれたまま固定化されるリスクをはらむ。賃金、物価、生産性の3つをそろって引き上げる好循環をつくれるかどうかは、賃上げの波を中小企業まで広げ、そこで働く人たちの購買力をどう支えるかにかかっていると言えそうだ。
