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2025年、中国の宇宙関連企業3社が相次いで一部再利用型ロケットの初打ち上げに挑む見通しだ。これが実現すれば、打ち上げたロケットの主要部分を回収して再利用しているのは、米SpaceXと、同じく米国の別の企業に続き世界で3社目となり、中国としては初めてとなる。打ち上げコストを下げたい衛星ビジネスには追い風だが、その巨額投資は誰の負担で、どこまで回収できるのかが静かに問われている。
衛星ビジネスが期待する「安くて何度も飛ぶロケット」
近年は、地球観測や通信の小型衛星を数百〜数千機規模で打ち上げる「コンステレーション構想」が相次ぎ、世界中の事業者が打ち上げ機会の確保に頭を悩ませている。中国の3社が目指す一部再利用型ロケットは、まさにこうした事業者向けに、低コストで高頻度の輸送サービスを提供することを狙ったものだ。1回限りで使い捨てる従来型よりも、長期的には発注側の費用負担を抑えられる可能性がある。
カギを握るのは、最も高価な1段目を回収して再利用する仕組みである。たとえば民間企業LandSpaceが開発中の「Zhuque-3」は、メタンと液体酸素を燃料とする大型ロケットで、着陸脚とグリッドフィンを備え、1段目を少なくとも20回再使用できる設計だとされる。報道では、同社は試験機での垂直離着陸や推進系試験を重ね、2025年後半の初打ち上げと回収を目標に掲げていると伝えられている。
別のスタートアップであるGalactic Energyも、液体燃料ロケット「Pallas-1」で同じ市場をにらむ。1段目に7基のエンジンを備え、脚を展開して洋上や陸上に垂直着陸させる構想で、2025年11月には中国・山東省の発射場で1段目推進系の静的燃焼試験を完了し、主要な地上試験を終えたと公表している。こうした動きは、中国内外の衛星事業者にとって、新たな「安くて頻繁に飛ぶ足」を得る可能性を示している。
日本のベンチャーや大学発衛星も、いまはH3やイプシロンのほか、米欧やインドのロケットを組み合わせながら打ち上げ計画を組んでいる。もし中国の再利用型ロケットが価格面で優位に立ち、信頼性も証明されれば、地政学的なリスクと天秤にかけつつ、それらを選択肢に加えるプレーヤーが出てくる可能性もある。
米国勢との距離と、中国3社それぞれの狙い
先行する米国勢を見ると、SpaceXはFalcon 9の1段目を繰り返し着陸させ、既に百回単位の再使用実績を積み上げている。もう1社の米企業も、亜軌道ロケットの着陸実験で成功例を重ねてきた。中国企業が2025年に挑むのは、こうした「実績の壁」を一気に乗り越え、軌道投入と回収を同時に証明するという高いハードルだ。技術力だけでなく、国家としての宇宙開発力を示す意味合いも色濃い。
その中でLandSpaceは、2015年創業のベンチャーながら、2023年にはメタン・液体酸素ロケットを世界で初めて軌道投入した実績を持つと報じられている。現在開発中のZhuque-3は、その延長線上で1段目の回収と再使用を狙う機体だ。民間投資と政府系ファンドの支援を組み合わせ、商業衛星だけでなく一部の政府需要も取り込みながら、米SpaceXのような「民間主導のインフラ企業」になることを目標に掲げているとされる。
一方、Galactic EnergyのPallas-1は、中型衛星の打ち上げに特化した設計で、静的燃焼試験の成功により初飛行への準備が最終段階に入ったと中国メディアは伝える。さらに、中国には別の民間企業が一部再利用型ロケットを開発しており、その機体「Tianlong-3」は1段目の垂直着陸と最大10回の再使用を構想している。3社はいずれも再利用を掲げつつ、狙うペイロード規模や顧客層が微妙に異なり、中国内での役割分担も模索段階にある。
成功後に見えてくるリスクと、日本勢の選択肢
たとえ2025年の初打ち上げと回収がうまくいっても、すぐにビジネスとして採算が取れるわけではない。再利用型ロケットは、多数の打ち上げをこなして初めてコストメリットが現れる構造だ。開発費や試験費用を含めれば、当面は投資家や政府系ファンドが負担し、商業打ち上げ料金にどこまで転嫁できるかは不透明である。既に市場を押さえているSpaceXとの価格競争も避けられない。
安全性と規制の観点からも、課題は残る。1段目の着陸に失敗すれば地上のインフラや船舶に被害を及ぼす可能性があり、2024年には中国の再利用型ロケット開発の過程で、試験中の機体が想定外の飛行をして注目を集めた例もある。中国国内で安全基準や飛行禁止空域の整備が進む一方、海外の荷主がどこまでリスクを許容するかは、今後の運用実績次第だろう。
日本勢にとっては、H3や小型ロケットの開発を進めつつ、海外の再利用型ロケットをどう位置づけるかが次の論点になる。コストを優先して中国ロケットも含めた多様な選択肢を持つのか、安全保障や技術流出の懸念から調達先を絞り込むのか。中国3社の挑戦は、安価な打ち上げの実現と引き換えに、誰がどのリスクを負うのかという問いを、静かに各国の宇宙ビジネスに突きつけている。
