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東北各地で続くクマ被害が、いま飼い犬にも及んでいる。今季だけで10匹超の犬がクマに襲われた疑いがあり、複数の県警がこうした事案を把握している。人里近くに定着したクマの一部が、庭先などでつながれた犬を獲物として学習している可能性があると専門家はみており、屋内での飼育への転換を強く呼びかける。静かな集落の庭先で起きる襲撃を前に、飼い主はどう愛犬を守ればよいのか。
庭先で襲われる飼い犬、生活の場に迫るクマ
東北の農村や住宅地では、これまで山間部の話と思われてきたクマ被害が、自宅の敷地内にまで及びつつある。今季確認された犬の被害はいずれも屋外で起きており、玄関先や庭、車庫の近くなど、人が日常的に出入りする場所でリードにつながれていた犬が突然襲われている。被害が確認された頭数は10匹以上に上り、地域の人々の不安は日ごとに高まっている。
被害の中には、クマが家屋の窓際まで近づき、つないでいた犬に襲いかかったと報じられたケースもある。飼い主が鳴き声に気付き窓を開けると、すぐ目の前に体長1メートルを超えるクマがいたという事例では、窓の開け閉めをめぐってもみ合いになり、飼い主が負傷した。クマとの距離は数メートルどころか、ガラス一枚を隔てるだけという状況が、東北の各地で現実になりつつある。
こうした襲撃は、単なる「ペット被害」にとどまらない。屋外で犬を飼うことは、防犯や獣害対策として長く地域に根付いてきた生活の知恵でもあった。子どもの帰宅を吠えて知らせる番犬を失うことは、安全装置を一つ失うことでもある。さらに、愛犬を突然失った飼い主の喪失感は大きく、「夜に外へ出られない」「子どもを庭で遊ばせるのが怖い」といった声が広がり、暮らし全体に影を落としている。
「犬を餌と認識する」クマ、屋内飼育が求められる理由
専門家が最も懸念するのは、人里に居着いたクマの一部が「つながれた犬は安全に捕れる餌だ」と学習してしまうことだ。逃げ場のない犬を一度襲って味を覚えた個体は、同じような環境を繰り返し狙うおそれがあるとされる。そのため、庭先のリード頼みだった飼い方から、少なくとも夜間は屋内で過ごさせる飼育形態へ切り替えることが、有効な対策として示されている。
背景には、クマの行動圏そのものの変化がある。今年の人身被害は全国で過去最悪のペースとされ、そのおよそ3分の2が市街地や田畑など人が暮らすエリアで起きていると各紙は伝える。東北では、ブナの実など主要な餌が大凶作となった地域が多く、山中だけでは飢えをしのぎきれないクマが、集落周辺の畑や民家にまで足を延ばしやすい状況だ。こうして人とペットが暮らす場所そのものが、クマの採餌圏と重なり始めている。
自治体は出没情報をこまめに発信し、クマよけ鈴の携行やごみの屋外放置を避けるよう繰り返し注意を促している。しかし、屋外飼育が当たり前だった地域で、住民全員が急に室内で犬を飼えるわけではない。高齢の一人暮らし世帯や、住宅の構造上ペットスペースを確保しづらい家庭も多い。屋内飼育の推奨は、単なるマナーの問題ではなく、住まいの改修支援や一時避難場所の整備など、生活基盤に踏み込んだ支援とセットで考えざるを得ない局面に来ている。
過去最悪の人身被害の中で、地域が選ぶ「距離の取り方」
クマとの距離が縮まっているのは、犬だけの問題ではない。環境省のまとめなどによれば、今年の人身被害は200人に迫る規模となり、死亡者数も統計開始以来最多水準に達している。東北や北海道を中心に、温泉施設や道路工事現場など、これまであまり意識されてこなかった場所でも襲撃が起きている。人家周辺での被害が増えるほど、庭先の犬もまた同じリスク空間に置かれていると見なさざるを得ない。
被害拡大の背景には、餌不足だけでなく、里山の管理放棄やハンターの高齢化といった構造的な要因も重なっていると、研究者や自治体は指摘する。かつては人が頻繁に出入りし、薪や落ち葉を採っていた山際の土地が、いまは放置されて藪となり、クマが身を隠しながら集落近くまで移動しやすくなった地域も多い。一方、クマを捕獲しようにも、狩猟免許を持つ人は減り続け、実際に出動できる猟友会の担い手も不足している。
こうした中で、すべてを「飼い主の自己責任」とするのは現実的ではない。犬を屋内に入れる、餌や生ごみを外に置かないといった家庭レベルの工夫に加え、出没リスクを地図で見える化する取り組みや、学校・動物病院を通じた情報提供など、地域ぐるみでの備えが欠かせない。クマと人が完全に切り離されることはない以上、愛犬を含む身近な命をどう守るかは、地域社会がクマとの距離をどう設計し直すかという、長期的な課題でもある。
