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ホワイトハウスの回廊にフラッシュが走った。トランプ米大統領が2025年10月15日、CIAにベネズエラ国内での工作活動を許可したと明かした。反米を掲げるマドゥロ政権への圧力を一段押し上げる判断で、移民・麻薬対策と結びついた強硬路線が地域情勢と米議会政治を同時に揺らす局面が広がっている。
ホワイトハウスで語られた“許可”の意味
短いやり取りのあと、記者団に向き直った大統領は、ベネズエラから犯罪者が米国に流入し、大量の麻薬が押し寄せていると主張した。国境での阻止を陸路でも徹底する考えを示し、マドゥロ政権が密輸に関与していると非難した流れで、CIAの関与を「許可した」と語ったとみられる。発言の矛先は明確で、矢面に立つのはマドゥロ政権である。
ただ、発言の正確な位置づけはなお判然としない。現時点で大統領令や大統領覚書の公表は確認されておらず、ホワイトハウス公式の詳細な書き起こしも見当たらない。米主要紙は、許可によりマドゥロ政権を標的にした秘密工作が可能となる一方、具体作戦の有無は不透明だと伝えている。発言だけが先行した格好とも映る。
外交筋の間では、ベネズエラとの停滞していた交渉がさらに冷え込むとの見立てが広がる。米国は暫定政府支持や制裁の発動と緩和を繰り返してきた経緯があり、今回の発言は「圧力」の比重を高める合図と映る。他方で、議会や同盟国の関与をどう担保するかが新たな論点として浮かぶ。手続きを欠けば、足元から批判が強まる可能性もある。
麻薬と移民を結ぶ政権の論理
政権の論理は移民と治安の接点にある。ホワイトハウスは3月、ベネズエラの犯罪組織「トレン・デ・アラグア」構成員らの集中的送還を誇示し、MS-13を含む凶悪犯の国外退去を加速させたと強調した。3機の便で数百人を移送したと列挙し、国境管理の失地回復と治安の立て直しをアピールするメッセージを繰り返してきた経緯がある。
こうした語り口は、国境の危機と麻薬の脅威を結び合わせることで世論の支持を固める狙いがにじむ。大統領は国家安全保障上の脅威としてベネズエラ発の犯罪ネットワークを位置づけ、必要なあらゆる手段を用いると示唆してきた。CIAの運用拡大発言は、その延長線上にあるとみられるが、法的根拠と監督の枠組みを欠けば反発を招く。
治安を理由とする秘密工作の拡大は、情報機関の権限と透明性をめぐる古い議論を呼び覚ます。一般に、米国の秘密活動は議会の監督委員会への報告や適用法の整理を伴うとされ、手続の適正が問われる。越境作戦が同盟国の領域や主権に触れる局面では、捜査共助や管轄権の取り扱いが難題となり、外交摩擦の火種にもなりうる。
海の現場で起きていること
一方、海の現場では淡々と取り締まりが続く。米南方軍が主導する多国間の対麻薬作戦は、中米沿岸やカリブ海の密輸ルートを監視し、検挙と押収を積み重ねてきた。近海では同盟国艦艇やヘリ部隊と連携した拿捕事例が記録され、海軍と沿岸警備隊、法執行機関が網の目のように連動する実像が浮かぶ。現場の性格は軍事行動というより法執行に近い。
2025年8月11日には、東太平洋の国際水域で約1,300ポンドのコカインが押収された。警告射撃ののち、ヘリの無力化射撃でエンジンを止め、負傷者は出なかったと公式説明は記す。違法薬物の投棄を伴う追跡の末に船を停止させる手順は定型化しており、証拠保全と人命の保護を両立させる運用がうかがえる。
これに照らすと、「9月以降、ベネズエラ沖で船舶攻撃と乗組員殺害を繰り返している」との言説は、一次情報で裏づけが乏しい。現時点で確認されている範囲では、致死力の行使は限定的で、停止措置と押収が中心だと読める。政権の強硬な語りと現場の運用の間に距離があり、その隙間をどう埋めるのかが次の焦点となる。
