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アメリカのドナルド・トランプ大統領が2025年9月28日（JST）に、オレゴン州ポートランドの移民当局施設を守るとして部隊派遣を指示した。州は29日に「違法」と提訴し、治安対応と統治の境界をめぐる衝突が一気に法廷へ移った。現地の空気感はおだやかだと州側は述べるが、連邦の強硬姿勢は揺らがない構図である。
トランプ氏は何を命じたのか
発端は大統領のソーシャルメディアへの投稿だった。ポートランドを「戦争で荒廃した」都市と描写し、移民・関税執行局（ICE）の施設が攻撃にさらされていると主張。国防長官ピート・ヘグセスに「必要な部隊の提供」を指示し、必要なら「全面的な武力行使」を容認する姿勢まで示した。政治的メッセージ性の強い宣言で、現場の温度感とのズレが早くも論争の火種になった。
派遣される兵力の内訳や法的根拠の切り分けは、当初から不透明だった。現地首長は「必要な部隊はゼロだ」と反発し、州知事も「国家安全保障上の脅威はない」と明言。治安対応は地元警察と連邦職員の連携で足りているとの見立てで、連邦の常設的な部隊展開はむしろ緊張を高めると懸念する。
この強硬策の背景にあるのが、9月23日（JST）に発表された「アンティファを国内テロ組織に指定する」との大統領令だ。連邦機関は資金の流れや違法活動の摘発を一段と強める方針を示し、ポートランドでの抗議行動も同じ文脈で語られた。ホワイトハウスは治安回復を掲げるが、指定の実効性と合憲性には早くから疑義が向けられている。
州の提訴、法廷で問うのは何か
オレゴン州とポートランド市は2025年9月29日（JST）、連邦地裁に提訴した。被告には大統領、国防長官、国土安全保障長官と両省を名指しし、州兵の「連邦化」による派遣は州の主権と法秩序に対する越権だと主張した。州の警察権を侵す措置であり、挑発的かつ恣意的だとして、差し止めを求める構えである。
訴状は、連邦の説明と現場の実態に隔たりがあると指摘する。焦点とされるICE施設周辺の抗議は小規模で、参加者は30人未満のことが多いという。現地警察の管理下で推移しており、6月以降は逮捕に至る事案もないと列挙。にもかかわらず州兵の一部200人を連邦任務に組み込むのは、事実に照らして過剰だと断じた。
加えて、州は「州兵を連邦任務の法執行に組み入れること自体が違法だ」と訴える。連邦軍の国内法執行を原則禁じる枠組みや、州の同意が問われる運用の慣行を踏まえれば、今回の派遣は逸脱だという立場である。連邦側が掲げる「施設防護」は、実態に合わない政治的演出だと強い口調で退けた。
争点は「治安」か「統治」か
今回の対立は、治安悪化の実像をどう捉えるかだけでなく、誰がどこまで権限を行使できるのかという統治の根幹にも触れる。大統領は全国的な取り締まりを掲げる一方、現地当局は「現場の裁量」を重視する。州選出議員は「対立をあおる再演だ」と警鐘を鳴らし、2020年の反省が生かされていないと受け止める声もある。
もう一つの争点は、「アンティファ指定」をめぐる法的現実だ。政権は国内の政治暴力に網をかける狙いを明言するが、法執行の現場が見ているのは具体的な犯罪であり、組織ラベルではない。少なくとも近年の捜査当局は、アンティファ由来の米国内テロ事件は確認できていないと整理しており、指定の運用は避けて通れない法廷論争を招く。
連邦と州が正面からぶつかる以上、初動の山場は仮処分の可否になる見通しだ。州側の主張が通れば派遣は一時停止に追い込まれ、逆に連邦側が押し切れば現場の緊張は高まる。いずれにせよ、必要なのは映像やスローガンではなく、現場の事実と法に基づく線引きである。ポートランドは今、治安の物語と統治の現実の間で揺れている。
