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東の間に集った大学球児たちの列の向こうで、ひときわ大きな笑い声が弾んだ。米国のトランプ大統領が、数日前にドジャースの大谷翔平が見せた一夜を引き合いに出し、心底うれしそうに語ったのである。式典は大学野球の王者をたたえるための場だが、国境を越えて野球が共有する昂揚が、政治の館にも波打った瞬間だった。大谷の歴史的な投打の噛み合いが、首都ワシントンの空気にまで届いたと映る。
ホワイトハウスに響いた称賛のことば
ワシントンのホワイトハウスで行われた大学野球の優勝チーム表彰は、2025年10月21日（日本時間）に催された。列席した選手や関係者を前に、トランプ大統領は開口一番「たまたまテレビをつけたら」と切り出し、ロサンゼルスの夜を席巻した大谷のプレーに話題を向けた。式典の主役は大学球児たちだが、野球の言語は一つであるという実感が会場に広がっていたとみられる。
現時点で確認されている範囲では、当日の発言の逐語録は政府の公的資料に掲載されていない。ただ、式典そのものは実施され、大学王者を称えた事実は報じられている。大統領が野球談義を織り交ぜる場面はこれまでにも繰り返されており、政治の場でスポーツを語る軽やかさがこの日も顔を出した格好だ。
思い起こせば、シーズン開幕直後の2025年4月7日には、前季ワールドシリーズを制したドジャースがホワイトハウスを訪問している。そこで大統領は大谷の存在感を強調し、スター軍団の一員としての影響力を持ち上げた経緯がある。握手に笑みがこぼれたあの場面の延長線上に、今回の称賛もあると読むのが自然だ。
三本塁打と十奪三振が示した現実
大統領の言葉の背景にあるのは、2025年10月18日に行われたナショナル・リーグ優勝決定シリーズ第4戦での大谷の働きだ。大谷は先発投手兼一番打者として出場し、初回に先頭打者弾。さらに四回と七回にも本塁打を重ね、ポストシーズン史上13度目の3本塁打という稀有な夜を演出した。打席ごとの圧は、球場の温度を一段押し上げたといえる。
投げても威力は揺るがない。六回まで無失点でねじ伏せ、七回に入り走者を出したところで降板したが、記録は七回途中まで2安打無失点、10奪三振で勝利投手となった。四回には屋根を越える推定469フィートの弾道も生まれ、攻守でのピークが同じ試合で重なった稀少性が際立った。数字が雄弁に語る夜だったといえる。
この一戦はシリーズの流れを決定づけ、相手ブルワーズの投手陣を心理面からも揺さぶったとみられる。先発としての球威と、一番打者としての最初の一矢。役割が交差することで相手ベンチの選択肢を縮め、戦術を後手に回らせた。観客席のざわめきが、次の一球と次の一振りに吸い寄せられていた光景が浮かぶ。
政治と野球が交わるところ
ホワイトハウスの式典は本来、大学王者の努力を称える舞台である。そのうえで、国家の指導者がメジャーの出来事に触れることには、二つの意味が重なる。ひとつは、野球が公共空間の共通言語として機能するという事実であり、もうひとつは、個の物語が国家の物語に接続される瞬間が生まれることだ。政治とスポーツの距離が一気に縮まる。
4月のドジャース表敬では、大統領は前季の50本塁打50盗塁という前人未踏の達成にも言及し、球団の面々を次々と称えた。今回、大学野球の王者を迎えた同じ東の間で、大谷の名が再び浮かんだことは象徴的である。異なる舞台の努力が、ひとつの言葉でつながる。その連続性が、スポーツの力の輪郭をいっそう濃くしている。
なお、20日の場での具体的な文言については、現時点で公的な逐語録の確認が取れていない。だが、式典の開催と、数日前の“あの試合”が国全体の会話の中心にあった事実は揺るがない。歓声と拍手の温度が、ワシントンにもロサンゼルスにも同じ熱で届いている。そんな風景が、この秋の米国に確かに広がっている。
