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週末の夜、スマホ画面に短い投稿が走った。2025年10月25日、トランプ米大統領が対カナダ関税をさらに10%上乗せするとSNSで示したと伝わり、国境をまたぐ工場と物流の街に緊張が広がる。発端は、レーガン元大統領の演説を引用したオンタリオ州の反関税広告。北米経済の背骨である二国間貿易に、また新たな波が立ったと映る。
広告一本が火種に、関税10%上乗せ発言が波紋
火種は一本のテレビ広告だった。自由貿易を説いたレーガン元大統領の言葉を引いたオンタリオ州の反関税キャンペーンが米国内で拡散し、トランプ氏の怒りを買ったとされる。25日のSNS投稿は追加の10%上乗せに言及したが、対象品目や適用開始時期などの詳細は示されていない。現時点で正式な行政文書は確認できず、発言先行の色合いが濃いといえる。
一方で、オンタリオ州政府は24日に広告の一時停止を米側と再交渉の糸口とする方針を探っていると伝えられた。ただ、広告停止がそのまま関税の抑制に結びつく保証はない。大統領選後の国内政治を背景に通商メッセージが強硬化する構図は続き、発言の振幅が市場心理を揺らす。越境工場の現場には、週明けの通関や納入の段取りを詰める緊張感が漂う。
USMCAの土台と「35%」、何が効いて何が効かないのか
前提となる土台はUSMCAである。2025年8月1日、カーニー首相は米国がUSMCAの適用外となるカナダ輸出に関税を35%へ引き上げる方針を示したと発表し、木材、鉄鋼、アルミ、自動車などが強い影響を受けると述べた。他方で、協定の枠内にある品目では自由化が維持されるとの立場を示し、交渉継続と国内産業の下支えを両立させる方針が打ち出された流れがある。
今回の10%上乗せ発言が実際に発動されれば、USMCAの外側にある品目では負担の累積が進む。協定に適合する部材調達や原産地証明の厳密化で関税回避を図る企業は多いが、書類運用の追加コストやサプライチェーンの再設計が求められる局面も想定される。結果として、関税だけでなく事務・物流コストを含めた実効負担が跳ね上がる公算が強いとみられる。
サプライチェーンの痛点、まずは自動車・金属・国境物流
北米自動車産業は国境をまたぐ工程の積み上げで成り立つ。オンタリオからミシガンへ、部品が日々行き交い、完成車の最終組み立てや試験も分担される。そこに関税不確実性が重なると、在庫積み増しや工程の前倒しが走り、コストの分散と納期の乱れが同時に進む。集積度の高い金属・化学材でも価格転嫁の遅れが収益を圧迫し、設備投資の判断を鈍らせる局面が広がっている。
鉄鋼とアルミは既に圧力の強い分野とされる。USMCAの枠に収まる品でも、評価価格の算定や原産地の証明で差異が生じれば関税リスクは残る。加えて、国境物流は待機時間の伸長と検査強化の波を受けやすい。一時的にトラック運賃が跳ねると、購買側はスポット調達へ傾き、価格のばらつきが拡大する。小さな遅延が翌週の生産計画を狂わせるリアルが、現場の肌感に近い。
外交の回路と法廷の行方、落としどころはどこか
外交の回路はまだ開いている。カーニー政権は交渉継続の姿勢を崩さず、国内では産業支援と市場多角化を打ち出している。米側は強い対外メッセージを保ちながらも、協定順守を前提にした運用余地を残す素振りも見せてきた。相互の政治日程が絡むため、当面は限定的な相殺措置と個別除外の積み上げで時間を稼ぐ展開が続くと映る。落としどころはまだ霧の中だ。
法廷の行方も注視点である。包括関税の扱いを巡り米連邦最高裁での審理が取り沙汰され、合憲性や権限の範囲が問われるとの見立てが出ている。仮に司法判断が大幅な設計変更を迫れば、行政は新たな枠組みを再構築せざるを得ない。現時点で確定した日程や結論は確認できないが、外交と司法の二つの時限装置が貿易の現場に影を落としているのは確かだといえる。
