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静かな空港ロビーに、記者団のざわめきが早くも戻りつつある。米国のドナルド・トランプ大統領は30日に中国の習近平国家主席と会う構えだと周辺で語られ、足元では大豆購入やフェンタニル対策、レアアース規制の緩和など「小さな取引」を積み上げる狙いが浮かぶ。ただ、現時点で両政府の公式資料に30日の会談日程を明示した発表は見当たらず、包括合意の着地点はなお霞んでいる。
小さな取引で空気を変える狙い
トランプ氏は合意の全体像を描くよりも、目に見える成果の積み上げで流れを変える術に長ける。市場心理を落ち着かせるための「当面の休戦」を引き出し、関税の次の一手を留保する余地を残す算段と映る。中国による米農産物の購入再開や先端部材の供給の安定を確保できれば、政権にとって政治的な示威効果は小さくないとみられる。
実際、米政権はフェンタニルを軸とする合成麻薬危機を対中政策の最優先課題に据えてきた。2025年2月1日、ホワイトハウスは中国の合成麻薬サプライチェーンを標的に追加関税を発動し、問題の「根源的な対処」を中国側に迫る枠組みを提示した。十分な執行措置が確認されれば関税を外す余地を残す構造で、交渉の「交換材料」としての性格が色濃い。
もっとも、こうした短期のパッケージは、技術規制や安全保障を巡る根の深い対立を解きほぐす処方箋にはなりにくい。トランプ氏自身が成果の演出を優先しがちなこともあり、合意できる範囲は限定的になるとの見方が広がっている。今回も、緊張の天井を一時的に下げる効果にとどまる可能性が高い。
レアアースと関税、交錯する圧力
交渉の硬い核に近いのがレアアースだ。中国は2025年10月9日、レアアースの生産・分離に用いる各種設備や原材料の一部を輸出管制の対象に加えた。根拠は国家安全と不拡散であり、制度としては「申請すれば輸出は可能」との枠組みだが、審査次第で供給の不確実性が高まる。磁石や半導体パッケージ、軍需用途にも接続する分野だけに、米側は撤回または緩和を強く求めるとみられる。
一方の米国は、合成麻薬をめぐる対中圧力に関税という強硬手段を組み込んだ。追加関税は麻薬対策の履行度と連動して外し得る設計で、ホワイトハウスは「十分な協力」を閾値として明確に示した。すなわち、中国がレアアースの輸出管理で主導権を握るなら、米国は関税のレバーで対抗する構図である。双方の圧力が同時に作動し、取引の余地と政治的な制約がせめぎ合っている。
この綱引きが示すのは、供給網と規制の相互依存が、従来の関税交渉を超える複雑さを帯びているという現実だ。仮に中国が審査を通じた「選別的な緩和」を示し、米国が関税の一部停止で応じるとしても、兵器転用の懸念や先端半導体の輸出管理など、別の回路で緊張が補正される可能性が残る。だからこそ、個別テーマの休戦はできても、包括的な停戦は遠い。
安定の合意を探るが、深層は動かない
両首脳の間合いは、ここ数カ月で確かに近づいた。2025年9月19日には首脳電話会談が行われ、次の段階に向けて「建設的な」対話継続を確認している。現時点で30日の会談日程を確定させる公式発表は見当たらないものの、実務レベルでは議題のすり合わせが進むとみられる。双方とも過度の緊張拡大を避けたい思惑は一致している。
それでも、安全保障や先端技術の線引きは国内政治の制約と直結し、譲れない領域が多い。半導体の対中供給管理、データやAIの管轄、海洋安全保障をめぐる姿勢は、首脳の一存で大きくは動かない。今回の取引で緊張のボラティリティを下げ、対話の回路を太くすることができるか。目先の合意が積み重なれば、衝突リスクを抑える「安全弁」にはなり得るが、根底の競争は続くとみるのが妥当である。
