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銅箔の上に塗った灰色の膜を、研究者が慎重にはがしていく。その薄い層が、次世代蓄電池の性能を左右する負極となるからだ。鳥取大学と日本新金属は、高結晶性の酸化タングステンを使った新しい負極材料を共同で開発し、20日に公表した。リチウムイオン電池などの高性能化と、タングステン資源の有効利用を同時にねらう取り組みである。
酸化タングステン負極が示した性能
今回の負極は、日本新金属がパラタングステン酸アンモニウムを熱分解して得た三酸化タングステン粉末をもとにしている。粒径が異なる3種類の粉末を導電材や結着材と混ぜ、銅箔集電体の上に塗って乾燥させ、負極(電池のマイナス側電極)を作った。電解液には一般的な有機溶媒系を用い、充放電試験で性能を比べたという条件だ。
その結果、粒径約170ナノメートルの三酸化タングステンを用いた電極では、塗工時に粉末が大きく固まらず、安定した膜ができた。充放電試験では、従来研究で用いられてきたルチル型酸化チタン負極よりも低い電位で放電しつつ、大きな容量を示した。高い結晶性を得るために、170ナノメートル粒子を空気中で2時間熱処理したところ、さらに高容量で繰り返し動作する材料になったという。
固体電池と安全性への応用
研究グループは、今回得られた負極が酸化物系固体電池にも使えるかも調べた。固体電池は、液体の電解液の代わりに固体材料を使う電池で、小型化しやすく漏れにくいとされる。有機溶媒電解液のセルとは別に、酸化物系固体電解質と組み合わせたセルを作製し、充放電が可能であることを確認した。ルチル型酸化チタン負極を用いた過去の試験でも固体電池への適用性が示されており、母材を変えつつ同じ方向性を追う形になっている。
共同研究相手の日本新金属は、使用済み超硬工具などタングステンを含むスクラップを回収し、国内で唯一の製錬工程を持つ企業としてリサイクルを進めている。今回の負極材料には、こうした再生原料を電池向けに展開していく構想も重ねられている。資源の乏しい日本では、レアメタルを国内で循環させながら、高性能電池という付加価値の高い形に変えていく試みの一つといえる。
資源循環と次世代電池への広がり
研究チームは今後、使用済みの超硬工具などから回収したタングステンを原料に再生し、今回の高結晶性酸化タングステン負極へつなげていく方針だ。日本新金属が開発してきたスクラップの酸化焙焼や破砕技術により、従来処理できなかった大型片や含油スラッジも資源として扱えるようになりつつある状況だと説明する。
高結晶性酸化タングステン負極は、高エネルギー密度を求めるリチウムイオン電池だけでなく、ナトリウムイオン電池など他方式への展開も視野に入る。鳥取大学は、酸化チタン負極で2万回以上の充放電や高速充電を示した実績も持つだけに、今回の材料でもサイクル寿命や安全性の検証が進めば、電池設計の選択肢を広げる一手となりそうだ。
