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濁流にのまれた車が交差点に折り重なり、救助隊の無線が慌ただしく飛び交った。台風25号（カルマエギ）が中部フィリピンを横断し、政府の速報では死者は52人。多くがセブ州で確認され、災害支援に向かった軍用ヘリの墜落で乗員6人も含まれる。台風は南シナ海へ抜け、6日夜にベトナム中部へ向かう見通しだ。現地では捜索と復旧が並走する。
セブで広がった濁流の爪痕
水位が一気に上がったセブでは、車両や道路が次々と水没し、濁流に押されたバスやトラックが交差点で横たわった。州当局によると、州内で39人の死亡が確認され、近隣のボホールでも1人が亡くなった。複数の自治体で行方不明者の通報が相次ぎ、救助隊は屋根に取り残された住民の搬送を続けている。SNSには道路や車が水に沈み、茶色い水が街路を駆ける映像が流れた。
住宅街では床上まで泥が入り、冷蔵庫や書棚が傾いたまま乾き始めている。州全域には災害事態の宣言が出され、緊急予算の拠出と物資の搬入が進む。住民からは、採石場の拡大や治水対策の遅れが被害を大きくしたとの指摘も漏れた。通りには流木や看板が残り、片づけの手は止まらない。濁った水の跡が壁にくっきりと残り、街の時間がそこでいったん切れたことを物語っていた。
救助の最前線で起きた墜落
救助の現場では、別の悲報が重なった。人道支援に向かっていた空軍のヘリがアグサン・デル・スルで墜落し、乗員6人が帰らぬ人となった。詳細な原因は調査中とされ、当時は強い雨と低い雲に視界が奪われていたと伝えられる。仲間を失った隊員らは作業を止めず、静かに腕章を握りしめた。被災地では立ち尽くす家族の肩に、濡れた毛布がそっと掛けられた。
各地の避難所には家族連れが敷き詰めた段ボールの上で夜を越し、親類宅に身を寄せる人もいる。当局は約7万世帯を事前に移動させたとし、港と空港では欠航や欠便が続いた。停電や通信障害も報告され、隊員とボランティアが発電機を回しながら給水と医療を支える。泥の匂いが残る体育館で、子どもたちは配られたビスケットを半分ずつ分け合っていた。
海を渡る進路と次の備え
台風はパラワン周辺を抜け、南シナ海で勢力を保ちながら西へ進む。中心付近の風は強く、瞬間的に165 km/h級の突風を伴う場面も想定される。広い範囲に厚い雨雲帯が残り、地盤が緩んだ山間部では土砂災害、低地では遅れて出水する河川に引き続き注意が必要だ。海上ではうねりが長く、沿岸の低地では高潮の被害が尾を引く恐れがある。
ベトナム中部では6日夜の上陸を念頭に、防災当局が避難計画や停電対策を積み上げている。長雨で傷んだ地盤や高波が重なれば、被害が広がるおそれもある。フィリピンでは水が引いた商店の奥で、濡れた写真や帳簿を並べて乾かす手が止まらない。静かな片づけの音だけが、街に戻りつつある日常を告げていた。
