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ガラス越しにスマホを構えた人たちが、ゆっくり竹をかじる双子の姿を追っていた。東京・上野動物園のジャイアントパンダ、シャオシャオとレイレイだ。その裏側で、中国の新聞は「日本からパンダが姿を消すかもしれない」と伝える。動物たちの穏やかな息づかいと外交の緊張が、静かに重なっている。
中国紙が描く「パンダ消滅」の懸念
北京市共産党委員会の機関紙「北京日報」は2025年11月19日、日中関係の緊張が続けば、日本からパンダがいなくなる事態もあり得るという専門家の見方を紹介した。遼寧大学日本研究センターの陳洋客員教授は、今の対立が長引けば中国が日本に新たなパンダを貸し出す可能性は低いと述べ、人気動物も政治の影響を免れないと示唆した。
こうした論調の背景には、高市早苗首相が国会で台湾有事を想定した答弁を行い、中国側が強く反発している事情がある。日本への団体旅行制限や水産物輸入の停止など、対抗措置が相次ぐなかでの発言だ。今年4月には超党派の議員連盟が訪中し、中国外務省報道官は「日本の協力を歓迎する」と述べ、パンダ貸与に前向きな姿勢を見せていたが、わずかな期間で空気は一変した。
上野の双子と揺れるパンダ外交
上野動物園で暮らすシャオシャオ(オス)とレイレイ(メス)は、中国からの貸与契約に基づき来年2月に返還期限を迎える。和歌山県のアドベンチャーワールドなど他園のパンダはすでに中国へ戻り、今は日本でパンダを見られるのは上野だけになっている。週末の園内には「今のうちに会っておきたい」と語る来園者が列をなし、別れを意識した静かな熱気が漂う。
ジャイアントパンダは国際的な保護対象で、各国の動物園にいる個体の所有権も中国側にある。日本で生まれた子どもも原則として2歳前後で中国に返還する取り決めで、保護研究と外交を兼ねた「パンダ外交」と呼ばれてきた。友好の象徴として親しまれてきた存在が、緊張の高まりのなかで交渉カードとして語られ始めたことは、日中関係の揺らぎを映す鏡のように見える。
