本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。[続きを表示]ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
送り投げで横綱を土俵下に転がすと、福岡国際センターに大きなどよめきが走った。2025年11月23日、大相撲九州場所千秋楽の優勝決定戦。関脇安青錦は本割に続いて横綱豊昇龍を破り、初めて賜杯を抱いた。21歳の若さで成し遂げたこの快挙は、ウクライナ出身力士として史上初の幕内優勝であり、戦火を逃れて日本に渡った一人の青年の歩みが、大相撲史の新しい頁として刻まれた瞬間でもあった。
ウクライナから土俵へ、戦火を越えた道
安青錦は2004年3月23日生まれのウクライナ出身で、本名はダニーロ・ヤブグシシンという。7歳で相撲に出合い、柔道やフリースタイルレスリングにも取り組みながら、世界ジュニア相撲選手権3位などの実績を重ねてきた。2022年2月、祖国で戦争が始まると、家族とともに一度はドイツへ避難し、その混乱のただ中で「相撲を続ける道」を選ぶ。18歳だった同年4月、単身で日本に渡り、言葉も分からないまま関西の大学相撲部などで汗を流し続けた。
同年12月には安治川部屋の研修生となり、2023年秋場所で初土俵を踏む。その後は地方巡業も含めて経験を積み、2024年九州場所で十両に昇進、2025年春場所で幕内入りを果たした。関脇という地位は、横綱と大関に次ぐ番付上3番目の地位で、実力者のみが立つ「三役」の一角である。幕内には同じウクライナ出身の前頭獅司もおり、母国から離れて土俵に立つ仲間の存在は心の支えにもなっているとみられる。四股名の「安青錦」の「青」は、ウクライナ国旗の青にちなんだもので、土俵の上で祖国への思いを静かに映し出している。
異彩放つ技と、史上屈指のスピード昇進
九州場所では、安青錦は本割で大関琴桜を下して12勝3敗とし、横綱豊昇龍との優勝決定戦に進んだ。決定戦では、立ち合いから低く踏み込んで圧力をかけ続け、横綱が引いた一瞬に背後を取って送り投げで勝負を決めた。この場所の成績によって大関昇進は確実視されており、初土俵からわずか14場所で大関に届く見通しだ。年6場所制の現在、この所要場所数での最高位到達は史上2位のスピードとされ、21歳8カ月での優勝も年少記録上位に位置づけられる。
土俵上で目を引くのは、その早さだけではない。今年の名古屋場所では、相手の内ももを下から払って体をひねる「内無双」で琴桜を倒すなど、他の力士があまり使わない技でも白星を重ねてきた。こうした技巧派ぶりは師匠の安治川親方ゆずりとも言われ、九州場所では初優勝と同時に殊勲賞と3度目の技能賞を受けている。三賞は活躍力士に贈られる特別賞で、殊勲賞は上位陣撃破などの内容を、技能賞は技の冴えを評価するものだ。先月のロンドン公演では大きな声援を受け、欧州初の横綱候補として期待する声も高まっている。インタビューで彼は「いや、これからだと思います」と静かに答え、次の場所でも今場所に劣らない結果をめざすと誓った。
歓声の残響が消えた福岡の会場をあとにしても、安青錦は再び土俵に向き合う日々へ戻っていく。その背中には、遠い祖国と家族の時間、そして新しい大相撲の時代を静かに押し出すような重みが宿っている。
