IMFと4年82億ドル合意も不足　ウクライナ「戦時財政まだ足りない」

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2025.11.28

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ウクライナ政府は11月27日、国際通貨基金（IMF）と4年間で82億ドル規模の新計画についてスタッフレベル合意に達したとしつつ、それだけでは戦時財政を支えきれないと訴えた。IMF支援とは別に、欧州連合（EU）が凍結中のロシア資産を担保にした融資を承認するよう、あらためて強く求めている。砲声が続く中、教員や医師、公務員の給与や社会保障をどう維持するのか、「ロシア資産を使うリスクを誰がどこまで負うのか」が新たな焦点になりつつある。

戦時下の家計を支える「外貨頼み」の国家予算

ロイター通信によれば、ウクライナ財務省は声明で「譲許的で、贈与に近い条件の大規模な対外資金が依然として不可欠だ」と強調した。IMFの試算では、今後4年間の資金ギャップは約1,366億ドルに達し、2025年の戦費だけで1日あたり約1億7,200万ドルに膨らむ見通しだという。こうした数字は、砲弾や燃料だけでなく、年金やインフラ補修など日常の出費までも、国外からの資金に強く依存している現実を示す。

ウクライナ政府は、この外部資金が止まれば、兵士の後方を支える学校や病院の運営が立ち行かなくなると危機感を募らせる。国内では税務行政の強化などで自前の歳入を増やそうとしているが、短期間で戦時需要を賄える規模には届かない。戦況が長期化するほど、前線の補給線だけでなく、家計を守る「財政の補給線」をどう確保するかが、生活者に直結する問題として重みを増している。

その中で政府がEUに求めているのが、域内で凍結されているロシア中銀資産を担保とする新たな融資枠だ。外貨建て融資を拡大することで、短期的には予算の穴埋めがしやすくなる一方、将来にわたってどの通貨で、誰が返済負担を負うのかという問いも生じる。ウクライナの人々にとっては、平時に戻った後も続くかもしれない債務の影が、復興の見通しと重なって見えている。

ロシア資産を担保に　EUが組む新しい支援の枠組み

ウクライナのシビハ外相は、EUが凍結ロシア資産を裏付けに最大1,400億ユーロ規模の融資を組成する構想を早期に承認するよう呼びかけた。これは、債務そのものはウクライナ名義としつつ、返済の原資を凍結資産から生じる運用益に求める仕組みを前提としている。G7はすでに、同様の考え方で総額500億ドル規模の支援パッケージを決定しており、EUはその一部として最大350億ユーロの融資を担う方針を打ち出している。

EUの枠組みでは、ロシア中銀の凍結資産から生じる「超過利子」を取り出し、特別な仕組み（ウクライナ向けローン協調メカニズムなど）を通じて各国の融資返済に充てる設計だ。これにより、表向きは加盟国の納税者負担を抑えつつ、ウクライナには長期・低利の資金を安定的に供給できると説明されている。すでに欧州委員会は、同様のスキームを通じて計数百億ユーロ規模の資金をウクライナに送金しており、予算の穴埋めやエネルギーインフラの復旧に使われている。

ただ、この仕組みは技術的で見えにくいが、本質的には「戦争を起こした側の資産から、被害を受けた側への支払いを行う」という新しい国際金融の実験でもある。過去、制裁対象国の凍結資産をここまで体系的に第三国支援に転用した例は少なく、将来の紛争でも同様の枠組みが使われる先例となりうる。ウクライナ支援のための制度設計は、ロシアとの戦争にとどまらず、国際秩序全体のルールづくりにも影響を与えつつある。

市場の警戒と加盟国の悩み　リスクの行き先はどこか

一方で、EU内部からは慎重論も根強い。英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、ベルギー政府やブリュッセルの大手機関投資家は、ロシア資産を担保にした大規模融資が「事実上の没収」と受け止められかねないと警告している。新興国の中央銀行や政府系ファンドが、将来の政治リスクを恐れて欧州市場への資金配分を減らせば、EU各国の国債金利がじわじわと上昇する可能性があるためだ。

金融機関側は、法的な異議申し立てやロシア側の報復措置に備え、EUが全面的な保証を提供すべきだとも訴える。保証の裏側には、最悪の事態では加盟国の公的資金が穴埋めに回るかもしれないという現実がある。つまり、「加害国の資産を使う」とうたいながら、そのリスクの一部は結局、EU市民とウクライナ市民の双方が負う構図になりかねない。こうした思惑の違いが、年末のEU首脳会議に向けた協議を難しくしている。

ウクライナにとっては、資金が早く届くかどうかが生死にかかわる一方、EU側には市場への信認と法の支配を守る責任がのしかかる。IMFとEU、G7が編み上げようとしている「ロシア資産担保型」支援は、短期的な資金繰りと長期的な制度リスクの綱引きでもある。最終的にどの案が採用されるにせよ、誰がどの期間、どこまでの負担を引き受けるのかという問いに正面から向き合わなければ、復興後のウクライナと欧州の関係にも静かな影を落としかねない。