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2025年10月21日、薄曇りのキーウで議員らが席に着くと、ウクライナ最高会議は今年の国家予算をふたたび手当てし、国防費を約3250億フリブニャ積み増して総額2兆9600億フリブニャとする修正案を可決した。夏の上積みに続く判断で、長期化する前線の圧力と装備需要の高まりが議場の空気に重なる出来事である。
数字が映す前線の現実
総延長1200キロメートル余りに及ぶ前線では、砲撃と無人機の応酬が日常と化している。現地からは消耗の速さが繰り返し伝わり、弾薬、対空、電子戦への投資が遅れれば即座に防衛線に跳ね返る構図がある。今回の増額は、兵站の「間」を埋めるための即効策として打たれた一手と映る。
今回の上積みは約3250億フリブニャ。現時点で確認されている範囲では、主に弾薬補給や防空能力、無人機対策、前線の修復・補給に重点が置かれるとみられる。前線の消耗は季節の変わり目に増幅しやすく、秋冬の長距離攻撃に備えた防護強化の急務が背景にある。
当初、今年の国防費は約2兆2000億フリブニャと見込まれていたが、戦況の変化に応じて見立ては上方修正が続く。総額は今回の改定で2兆9600億フリブニャに達し、国家歳出の優先順位が一段と鮮明になった格好だ。財政全体の配分を圧迫しつつも、防衛の持続性を確保する選択が前面に出た。
財源の構図と国際ネットワーク
マルチェンコ財務相は、状況が常に動く以上、侵略に効果的に抗するための支出を増やさざるを得ないと説明した。政府は国際的なパートナーの支援を背景に、ウクライナ軍向けの追加支出を確保する資金源を持つと強調し、短期の防衛需要と中期の産業基盤強化をどう両立させるかという難題に向き合っている。
財源面では、ロシア政府の凍結資産から生じる利益を担保とする融資の活用が軸の一つに据えられている。政府関係者の説明では、こうした枠組みを通じた資金の流入で当面の防衛支出に目処を付ける方針が示唆されている。一部報道によれば、今年に入ってこのスキームから相当額が流入したとされ、外部資金のネットワークが支えとなっている。
同時に、国内債の発行や税収の上振れ、歳出の選別といった内生的な手当ても続く。国家安全保障・国防会議の決定では、来年に向けても安全保障関連歳出の優先を維持する方針が打ち出されており、戦時財政の「平時化」を避ける構えだ。外部資金と内生資金の二本柱で、継戦下の財政運営を支える構図が広がっている。
二度目の増額が示す先行き
国防費の上積みは今年二度目である。7月には約4124億フリブニャの追加が決まり、前線の逼迫に対して財政が素早く反応した。今回の決定はその延長線上にあり、弾薬の持続供給と防空の層を厚くする狙いが色濃い。一連の判断は、戦況の揺れに合わせた「機動的な補正」が常態化している現実を物語る。
秋冬はエネルギー施設や都市インフラへの攻撃が強まる季節でもある。防空の網を補修し、被害復旧の資材と人員を前広に確保できるかが、都市機能を守る鍵になる。今回の可決は、そのための資金的な地ならしとして機能し、前線から背後の社会基盤に至るまで、戦時の脆弱性を埋める効果が期待される。
一方で、教育・医療や復旧・復興といった分野との綱引きも続く。限られた財源をどこに配分するのかという政治の選択は、今後の税制設計や債務運営にも跳ね返るだろう。透明性の高い執行と監査が担保されるか、国民の支持を維持できるか。二度の増額が突きつけるのは、持久戦に耐える財政の作法である。
