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国連開発計画(UNDP)は12月2日、人工知能(AI)が先進国と発展途上国の格差を広げる恐れがあると警告する報告書を公表した。所得や教育の差を縮めてきたここ数十年の「収れん」が、AIをきっかけに逆回転しかねないと指摘し、各国にデジタル基盤や人材への投資などの政策対応を促している。本記事では、AIの恩恵とリスクの偏りをどう是正できるのかを手がかりに、この提言の意味を読み解く。
届かないAIの恩恵、現場で広がる取り残され感
UNDPの報告書は、AIの利用機会が国や地域によって大きく異なる現実を示した。ある高所得国では国民の約3人に2人が生成AIなどのツールを使う一方、多くの低所得国では利用率が5%程度にとどまると試算している。南アジアでは、女性がスマートフォンを持つ割合が男性より最大40%低い国もあり、そもそもインターネットにつながれない人々が少なくない。AIが医療相談や教育、行政サービスに組み込まれていくほど、こうしたデジタル断絶は生活の差として表れやすくなる。
例えば、洪水予測や干ばつ監視にAIを活用すれば、農村部の住民が早めに避難し、収穫の損失を抑えられる可能性がある。しかし電力や通信が不安定な国では、そのような仕組みを導入する土台が整っていない。都市部の一部エリート層だけが最新のアプリやクラウドサービスを使える状況では、「AIによる防災」や「AIによる金融包摂」といった開発のかけ声も、現場の農家や零細事業者には届きにくい。日本国内でも都市と地方のデジタル環境の差が指摘されてきたが、世界規模ではそのギャップがはるかに大きい。
雇用面の影響も深刻だ。報告書は、AIによる自動化の影響を強く受ける職種に、女性や若年層が集中していると警鐘を鳴らす。すでに一部の国では、AIに関連する高スキルの仕事ではなく、単純なデジタル作業に頼ってきた若者の雇用が減りつつあるという。社会保障や職業訓練の制度が弱い国ほど、仕事を失った人が次のスキルを身につける機会を得にくい。単なる技術格差ではなく、「次の仕事への橋」があるかどうかが、AI時代の新しい分断線になりつつある。
UNDPが促す「次の大分岐」を防ぐための処方箋
UNDPは今回の報告書で、AIをめぐる格差拡大のリスクを「次の大分岐(ネクスト・グレート・ダイバージェンス)」と名付けた。貿易や技術移転、開発援助を通じて、低所得国が高所得国との距離を少しずつ縮めてきたここ50年ほどの流れが、AIによって再び開いてしまう恐れがあるという問題意識だ。AIの開発や運用には、高度な計算資源と専門人材、強いガバナンスが必要で、それらが一部の国に集中している現状では、放置すれば差が広がる方向に働きやすい。
そのうえで報告書は、各国政府に対し「技術そのものより人を優先する」政策パッケージを提案している。具体的には、安定した通信網や電力網の整備、安価な端末へのアクセス拡大、基礎教育とデジタルスキル教育の強化、そして失業時も学び直しができる社会保障制度の再設計などだ。さらに、AIによる差別や監視を防ぐための法規制や、生成AIの誤情報から市民を守るための透明性ルールも求めている。重要なのは、これらを単発のプロジェクトではなく、人間開発全体の戦略に組み込むことだと強調する。
アジア太平洋地域では、すでに複数の国が国家AI戦略を掲げ、公共サービスや産業支援への活用を進めている。一方で、基礎的な電化や教育が追いつかない国も多く、地域内の格差は大きい。日本や欧州諸国が行う政府開発援助(ODA)や国際機関経由の資金も、従来のインフラ整備に加え、デジタル人材育成やAIガバナンスの構築を支える方向へと比重を移すことが検討されている。UNDPの処方箋は、単に「AIに乗り遅れるな」という競争ではなく、「誰が乗せてもらえないままか」を問う視点を各国に突きつけている。
放置すれば豊かな国にも跳ね返る、AI格差の波紋
AI格差は、当事者である途上国だけの問題にはとどまらない。ロイター通信によると、UNDPのアジア太平洋地域のチーフエコノミストは、格差が広がり続ければ、治安不安や紛争、気候変動に伴う移住の増加といったかたちで、最終的には豊かな国にも影響が及ぶと警告している。AIによる生産性向上の果実が一部の国に集中し、他方で仕事や社会的安定を失った人々が増えれば、国境を越えた政治的不安定要因になりうるからだ。AI政策は国内の産業戦略であると同時に、安全保障や移民政策とも密接につながるテーマになりつつある。
環境負荷の面でも、AIの急拡大は新たな課題を生んでいる。UNDPの担当者は、AIを支えるデータセンターの電力と水の消費量が2030年までに現在の2〜3倍に膨らむ可能性を指摘した。電力網が脆弱な国では、AI関連施設が増えることで停電リスクが高まり、生活や医療に必要な電力まで圧迫されかねない。水資源が限られた地域では、冷却用の大量取水が農業や飲料水と競合する懸念もある。AIの主な開発拠点が置かれた国だけでなく、そのエネルギーや資源を供給する国にも影響が波及する構図だ。
UNDPの警告は、AIをめぐる世界の議論を「技術競争」から「共有するリスクと責任」の話へと押し戻そうとしているように見える。AIによる新たな格差を避けるには、モデルやサービスの開発スピードだけでなく、人材育成や制度づくりのスピードをそろえる必要がある。そのコストを誰がどの期間負担するのかという問いは、途上国支援にかぎらず、日本を含む各国のデジタル政策にも静かに突きつけられている。
参考・出典
- AI risks sparking a new era of divergence as development gaps between countries widen, UNDP report finds
- The Next Great Divergence: Why AI may widen inequality between countries
- AI could increase divide between rich and poor states, UN report warns
- AI's impact could worsen gaps between world's rich and poor, a UN report says
- AI race is faster than countries can adapt, threatening greater global inequality, UN report warns
