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白い作業台の上で、指ほどの幅の帯が音もなく伸び、次の瞬間には固く身構える。韓国・蔚山科学技術院（UNIST）が発表した新型の人工筋肉は、まるでゴムが鋼鉄に変わるように柔らかさと硬さを切り替える。自重の4000倍を支えるうえ、伸びやかに動けるという相反を一枚で越えた。ロボットや医療の現場で「人に寄り添う力学」の輪郭が濃くなる出来事である。
柔らかさと硬さを行き来する仕組み
研究チームは、柔らかいと壊れやすく、強いと動きが出ないという人工筋肉のジレンマに真正面から挑んだ。鍵は「二重架橋」にある。材料の骨格に共有結合の強固な網を張り、その間を熱で結び直せる物理的な結び付きで埋めた。場面に応じて剛と柔を行き来する設計である。
実験では、剛性が213 kPaから292 MPaへと切り替わり、比にして約1.37×10^3の幅を示した。形状固定率は99%超と報告され、変形させた姿を確実に保てる。柔軟なときには自在に曲がり、固くすると荷重に耐える。その振る舞いは、たわむ尺取り虫が岩に身を預ける瞬間を思わせる。
さらに、表面処理した磁性微粒子を均一に分散し、外部磁場での遠隔駆動とプログラム制御を可能にした。熱刺激で結び目を組み替え、磁場で動きを引き出す二段構えだ。素材の内部で起きる微視的な結晶化とほぐれが、肉眼で見える大きな仕事に変わる構図が浮かぶ。
数字で見る性能と到達点
数値は説得力を持つ。質量1.25グラムの小さなサンプルが、固くなった状態で最大5キログラム、すなわち自重の4000倍を支えた。逆に軟らかくすると、元の長さの12倍まで伸びる。軽やかに伸び縮みしながら、要所では重みを受け止める二面性が際立つ。
駆動時のひずみは86.4%に達し、人の骨格筋がおおむね40%前後とされる目安を大きく上回る。単位体積当たりの仕事量は1150 kJ/m³で、ヒト組織の約30倍とされる水準だ。現時点で確認されている範囲では、ソフトアクチュエータの記録級の組み合わせと映る。
柔らかさを保ちながら力を出すことは、人と触れ合うロボットの宿題だった。固めて運び、ほどいて寄り添う。この切り替えが一体の素材でできるなら、把持や歩行の制御はシンプルになる。高い形状固定率と可逆性は、再現性の高い動作学習にも利くとみられる。
何が変わるのか—応用と課題
応用の射程は広い。外骨格スーツの補助筋、内視鏡先端の微小把持子、触覚に配慮した介助ロボットの関節など、身体に近い領域での利用がまず浮かぶ。必要な瞬間だけ硬くなれば、装着時の負担は抑えられ、普段は柔らかい装具として馴染む余地が広がっている。
一方で、実装には詰めるべき点も残る。剛柔切替の熱設計と磁場印加のエネルギーバランス、冷却・加熱の時間定数、長期の繰返し耐久、厚みや大面積化での均一性などだ。医療応用では生体安全性や滅菌耐性の検証も要る。実験室の強さを製品の確かさへ積み替える段だといえる。
論文は2025年9月7日に公開され、大学は2025年10月2日に成果を発表した。海外メディアは2025年10月13日に相次いで報じ、持ち上げ動作では自重の数十倍、支える能力は4000倍と整理した。伝え方の温度差はあるが、柔と剛の同居を一枚で示した点で各報道は重なる。
