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戦時中の旧日本軍「関東軍防疫給水部(731部隊)」を題材にした中国映画「731」が、2025年9月18日に中国本土で公開された。重い歴史に正面から向き合う企図を掲げながら、SNSでは演出の軽さや荒さを指摘する酷評が目立ち、期待の大きさゆえの失望も広がっている。公開延期を経た話題作は、初日から賛否の渦に飲み込まれた。
公開初日、賛否が激突する劇場前
公開日は2025年9月18日。『731』は監督の趙林山が脚本も担い、姜武や王志文らが出演する。物語は終戦前の満洲を舞台に、収容施設に連行された市井の男が生還を模索する流れで、舞台装置として部隊の施設が立ち上がる。ポスターは寒色の白に血の赤を差し、歴史の冷たさを正面から提示するような意匠だ。
観客の反応は鋭く割れた。豆瓣では「暴虐を可視化した意義はある」とする支持の一方、「演出が粗雑でドラマの推進力に欠ける」との落胆が重なる。「日本人女性幹部の描写が不自然で没入を妨げる」といった具体的な指摘も散見され、重厚さよりも既視感を強く覚えたとする声が並んだ。賛否のボルテージは高く、議論は昼夜を問わず続いている。
興行の勢いは、指標の一部では記録的だった。公開前日の時点で初日上映の予售場次が23万6000を超え、開幕時点の場次として過去最多との報が出た。スクリーンの厚い布陣が話題を後押しした一方、内容評価の二極化がクチコミの波を荒立てた。
延期の記憶が生んだ期待と、冷めた体感
この作品は2025年7月31日に予定されていた公開がいったん見送られ、情報サイトの表記も先送りへと差し替えられた経緯がある。待機期間の長期化は宣伝熱を加速させ、劇場側の編成も拡大した。結果として、観客の心理的なハードルは上がり、完成度への要求も一段と厳しいものになった。
作品は731部隊の凍傷や毒ガス実験といった残虐行為を描写に織り込み、被害の実相を画として残そうとする。だが、救いの糸を求めて施設から脱出を試みる劇映画の骨格に史実の惨烈を重ねたことで、トーンの揺れが生じたとの受け止めもある。観客は告発と娯楽の境目に目を凝らし、演出の選択に是非を投げかけた。
さらに、配役や美術の設計にも議論が及んだ。衣装や色調の整い過ぎた清潔感が時代の湿度を逃がしているという批評や、キャラクターの運命の描き方がカタルシスより無力感を導いたとの感想もある。宣伝が喚起した“歴史大作”のイメージと、スクリーンで体験した質感のズレが、落差として心理に残ったのである。
歴史をどう見せるか、その難所
731部隊という題材は、記録の継承と表現の倫理が常に問われる難所だ。『731』は市井の視線から受難を捉える構図で、記憶の継承に物語の動力を与えようとした。しかし、加害の痕跡を可視化する責務と、エンターテインメントとしての鑑賞性の両立は容易ではない。劇場で起きた議論は、その難しさを鏡のように反射している。
一部の観客は「史実の暗部に光を当てる試み自体は評価する」としつつ、演出のリアリティやキャスティングの説得力に首をかしげる。別の層は「不快さこそが歴史映画の効能だ」と主張し、作品の価値を内容の苛烈さに見いだす。両者の視線が交錯する場で、映画は史実への敬意と造形の自由のバランスを模索している。
公開のタイミングは、満洲事変の発端から94年の節目と重なる。記憶の節目に合わせた大規模公開は、歴史の語り直しを大衆の前に開く。だからこそ、作り手が選ぶワンカット、観客が口にする一言が、過去と現在の距離を測る物差しになる。この作品を巡る熱のこもった異論は、記憶の扱い方を巡る社会の現在地を映しているのだ。